52話 無鉄砲な行動。

 52話 無鉄砲な行動。



『君が行動を起こさなければ、30分後、最初の犠牲者が出る。



 だいぶイカれた内容の放送だというのに、

 周囲の人間は、その放送に一切反応していない。


 その様子を受けて、センは、


(おそらく……『マジックアイテムを持つ者にだけ聞こえる音を発する変声器』か何か……だろうな……)


 などと推測しつつ、心の中で、


(……『紅院の報告』だけでは信用できないから、今回の件をつかって、俺を炙りだそうって感じかな……俺の正体を知っていれば手紙、知らなければ放送……単純な話……)


 そんなことをつぶやきつつ、

 廊下に出ようとしたところで、

 オバセンが、


「ん? ちょっと、閃くん、どこにいくの?」


「トイレです。腹が痛いので」


「今は、占拠されている途中なんだから、テロリストにお伺いをたてるべきでしょう?」


(蓮手と同じことを……キナくせぇな……)


 と、心の中でつぶやきつつも、

 センは、テロリストにお伺いをたて、教室の外に出た。


 当然、トイレにはいかず、

 紅院たちが連れていかれた校長室へと瞬間移動する。


(……剣翼が展開されたとしても、あいつらの近くにいれば、守ることが可能……携帯ドラゴンさえ生きていれば、アイテム探索ができる……)



 ★



 ――瞬間移動してきたセンを見て、

 紅院と薬宮の二人は目を丸くした。


 彼女たちの視点では、なかなか唐突な出来事だったため、

 脳の処理が成立するまで時間がかかった。


 そのすきをついて、

 センは、


「これが分かるか?」


 と、図虚空を魅せつける。


 その行動に対し、

 薬宮が、


「……閃……あんたがノゾ=キマやったんか」


「その名前は、忘れろ」


 と、前を置いてから、

 紅院に視線を向けて、


「スマホかせ」


「え?」


「命を助けてやった恩を忘れたか? スマホぐらい、ポンと貸しやがれ」


「べ……別に……いいけれど」


 まだ、脳の処理が追い付いていない様子の紅院。

 ただ、自分の命を救ってくれた相手の命令を無碍にすることはできず、

 要求通りに、自分のスマホをセンにさしだした。


 ちょうど、タイミングよく鳴り響くスマホ。


 センは、スマホの画面を、紅院に見せつけて、


「お前の親父からだ。俺は、こいつに用がある。というわけで、出るぞ」


 と、軽く了解を得てから、電話に出る。




「よう、紅院正義」




『……もしかして、ノゾ=キマくんかな?』


「お前の娘のクラスメイト、センエースだ。こんにちは」


『……こんにちは』


「とりあえず、ガキを殺すのはやめさせろ。その一件に関しては、あとで、あらためて話がある。俺は、逃げも隠れもしない」


『了解した。出来れば、今から会いたい。迎えの車をよこすから――』


「今日は無理だ。明日にしてくれ」


『……救世主の頼みは断れないな。君の望む通りにしよう』


「よろしく」


『一ついいかな』


「なんだ?」


『娘を助けてくれて、ありがとう。感謝する』


 そう言って、

 紅院正義は電話を切った。


 センは、用がなくなった電話を紅院美麗に返し、

 ソファーに腰を落とし、時計を確認する。


(……あと10分くらいか……)


 世界が終わるまで、あと10分。

 そうかんがえると、全身にイヤな汗が沸いた。


 センは、相当なサイコさんだが、

 この状況で冷静でいられるほど狂ってはいない。



「どうかしたんか? 顔色が悪いようやけど」



 心配そうな顔をしている薬宮に、


「集中させろ。10分ほど、声をかけるな……」


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