69話 美少女の名前だけはフルネームで憶えている閃光。
69話 美少女の名前だけはフルネームで憶えている閃光。
(俺が、『仙草学園』の二年生だって記憶とは接続できている。学校の場所も、行き方も。クラスの場所とか、同級生の顔とか、ちょっと曖昧な部分もあるが、だんだん、開けてきているのも事実)
学校に向かう途中の、電車に揺られている最中に、センは、
(同級生の中でも、目立っているヤツ、興味深いやつの顔は思い出してきた)
(いい傾向だ。ちなみに、誰を思い出した?)
(……『作楽(さくら)トコ』。若干違うところもあるが、薬宮に、すさまじく似ている女。……ヨグ……『作楽トコ』と『薬宮トコ』は、何か関係があるのか?)
(同じ中核を持つ。だが、異次元同一体とも言い切れない。中心に共通するものがあるのは事実だが、パッケージは別物)
(よくわかんねぇな)
(別人だと思って問題はない。正確に言えば、別人ではないが、しかし、そんな細かいところは、裏設定案件だ)
(なんだ、裏設定案件って……)
(気にするな。特に意味はない)
(混乱するだけだから、『特に意味のないこと』を口にするのはやめてもらいたいものだけどねぇ)
(ほかは?)
(ほか?)
(思い出したのは、女一人だけか?)
(あと……『天童』のことは思い出した。作楽と仲が良くてガタイのいいヤツ。下の名前までは憶えてねぇけど、なんか妙な影のある目つきの悪い男)
(目つきの悪さで言えば、貴様の方が上だと思うが)
そんなヨグの本音をシカトして、
センは続ける。
(あと、クラスメイトじゃねぇけど、頻繁に、その天童に絡んでいる後輩の女……『佐々波(さざなみ) 恋(れん)』……)
(女の名前だけはフルネームで憶えているようだな)
(……含みのある言い方、やめてくれる? いや、まあ、何の反論もできんのだけれども)
うざそうにそう言い返してから、
センは、コホンとセキをはさんで、
(佐々波恋……あいつは、茶柱に似ている。顔と表情がそっくりだ。違うと思うところも多いが……中心が似ている気がする)
(佐々波も作楽と同じで、茶柱と同じ中核を持つ。だが、作楽と薬宮の関係とは違い、パッケージの種類がだいぶ異なる。『酒神シリーズ』は特別だからな。『トコシリーズ』もかなり特別だが、『特別』の方向性が異なる)
(……ずっと思っていることだけど、お前、俺に説明する気ないよね? 何言っているか、基本的に、わからねぇんだけど)
(私の言葉を、貴様が理解する必要は皆無。貴様はただ、センエースであればいい)
(言われなくても、俺は、センエース以外になったことはねぇよ。『もっとマシな生き物』になりたいと願い続けてきたが、あいにく、俺は、いつだって、センエースという、しょっぱいボッチでしかない。悲しい話だ)
などと、心の中で会話をしていると、
『次は仙草学園前~、次は仙草学園前~』
目的の駅にたどり着いたことで、
センは、ドアの前に立った。
停止するまでの間、惰性で走っている電車の中で、センは、
(通学にかかる時間、およそ20分……長ぇよ。仙草学園の『寮』だと銘打っているマンションのくせに、なんで、あんなに遠いところに建ってんだ。頭、悪いのか。……つぅか、なんで、俺は、そのクソ遠い所に住んでんだよ……ウゼェ……非合理的すぎる……)
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