37話 無に質量は生じない。


 37話 無に質量は生じない。


「実際のところ、『第二アルファ』も夢じゃねぇんだろうけど……これは、そういう意味じゃなく……今の俺に直結したリアルだから……『パチンと指を鳴らせば一旦はリセットされる』とか、そういうたぐいの話じゃないってことは重々理解できた」


 前提をならしていく。

 リアルとタイマンをはる覚悟を決める。


「わかりやすい話は大好きだ。俺は頭が悪いからな」


 忘れずに、軽い自虐もはさみつつ、


「俺の全部で止めてやる。簡単に砕けると思うな。マジの覚悟を決めた時の俺は、普段のサイコバージョンよりも、さらにウザいぞ」


 オーラを練り上げていく。

 とっくに限界を超えている。

 容量を突っ切って、

 さらなる自分と向き合っていく。


 深く、深く、自分と対話しつつ、

 センは、心の中で、


(ただの妄想でもいい)


 自分に語り掛ける。


(俺を壊してくれてもいい。クソったれな俺をつきつけてくれて構わない。だから、もう一度……俺に夢を見せてくれ)


 希望や願望ではない。

 奇跡を期待しているわけでもない。


(……『ソレ』を背負えるだけの器が……今の俺にはあるはずだ。今日の俺は、昨日の俺を絶対に超えている。そう言い切れるだけの日々を積み上げてきた。散々、狂ったような絶望を積んできた。何回も、何十回も、何百回も……)


 『銀の鍵』を乱舞させ、

 幾度となく、時空を旅してきた記憶を自身に刻み込む。



「俺は無能だが……『超えてきた壁』の『数』だけは余裕で自慢できる。絶対に誰にも負けねぇ。負けるわけがねぇ。――『量』でしかモノを語れないヤボな男だが……それでも……『魅せられる希少性』は『確かに存在する』と確信している。胸を張って言えるぜ。俺は『とびっきり』だって」


 グググっと、

 魂魄の奥が膨れ上がる。


「俺の才能レアリティは、間違いなく凡夫級だが、『頭のバグり方』だけは、確定でとびっきり。だから――」


 世界とつながる感覚。

 くだらない『妄想』が、

 今、






「――究極超神化プラチナム――」






 絶大な妄想力(厨二力)で、

 自分の鎖を引きちぎる。


 図虚空を自分の心臓に突き立てて、

 確定致死量の血液を噴出させる奇行。


 ただの『痛い妄想』では超えられない壁。

 たんなるお遊びではたどり着けない場所、

 マジでイカれた厨二さんにしか見えない風景。


 全身を包み込む白銀。

 高質化した血液が、無造作な深い輝きを、

 周囲のあちこちに放ちながら、

 センを包み込む。



「……ふぅ……」



 神々しい鎧に包まれたセン。

 膨れ上がる、神の力。


 それを見て、ヨグシャドーは、


「妄想を象(かたち)に変えてみせたか……」


 呆れ交じりに、そうつぶやいて、


「――もう二度と……『無』に『質量』は生じない。貴様は積み重ねてきたのだろう。妄想を具現化させるだけの絶望を。素晴らしい。心底からの称賛に値する」


 心からの言葉を贈る。


 本気のメッセージだと伝わってきた。

 だから、センも、真摯に、


「準備はできた。さあ、こいよ、ヨグシャドー。俺の全部で受け止めるから……遠慮せずに、ぶっ放してこい」


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