29話 はっ、夢か……
29話 はっ、夢か……
「ここまでくると、さすがに認めざるをえないな。センエース、お前がナンバーワンだ」
「……」
「まあ、しかし、実際のところ、順位はどうでもいいんだ。大事なことは、運命を殺せるか否か。その命題に答えを突き付けられるのであれば、別に最下位でもいい」
「……」
「……『俺』も、かつては、相当良い線までいったんだ。歴代の主人公の中では、俺は間違いなくナンバーワンだった。俺こそが、『最後』の希望だった。――その評価に見合うだけの努力をした。可能性を示した。けど、結局、届かなかった」
「……」
そこで、アゲセンは天を仰いで、
「――悪鬼羅刹は表裏一体。俺は独り、無限地獄に立ち尽くす」
急に、ポエムを口ずさみはじめた。
「どこまでも光を求めてさまよう旅人。ここは幾億(いくおく)の夜を越えて辿り着いた場所。さあ、詠おう。詠おうじゃないか。喝采はいらない。賛美も不要。俺は、ただ、絶望を裂く一振りの剣であればいい」
最後まで言い切ると、
アゲセンは、
センの体に手をあてて、
「想いの結晶。過去と未来を繋ぐ、たった一つの希望」
ブツブツと、何かをつぶやいてから、
「――頑張れ、センエース。お前が、これまで、散々頑張ってきたのは知っている。すべて理解した上で、それでも、こう言わせてもらう」
「……」
「まだ頑張れ」
まるで、その言葉がトリガーにでもなったかのように、
センの手の中のカギが、強く、強く発光しはじめた。
光が強くなるにつれて、
センの意識が溶けていく。
「――ぁっ――」
★
「……はっ……夢か……」
目が覚めると、そこは自室だった。
センは、ゆっくりと上半身を起こしながら、
「やっぱり、そうだよなぁ……とうぜん、夢だよなぁ……」
などとつぶやきつつ、
窓の外を眺める。
当たり前のように、窓の外では、人々が行きかっている。
その当たり前の光景にホっとしつつ、
「……全人類が死ぬとか、そんな『セカイ系な超展開』、ありえないもんなぁ……あー、良かった、よかった」
などとつぶやきつつ、呑気にノビをしていると、
「……あん?」
知らない番号から電話がかかってきた。
「……」
鳴り響く着信音。
センは、スマホを見つめながら、
「……間違い電話でありますように」
祈りながら、電話に出ると、
「久剣一那です」
「……ぅえ」
「この電話番号、閃壱番さんの電話番号でお間違えないですか?」
「あー、えっと……そうですね」
「閃壱番さん、私が誰かわかりますか?」
「ええ、まあ、わかりますよ。てか、逆に聞きたいんですけど……どうして、あなたは、俺を知っているのですか?」
「――世界の終わりを、あなたと共に過ごしたから」
「……」
「最初は、もちろん、夢だと思いました。しかし、私は、あまりにも鮮明に覚えすぎていた。『上』から、『あなたに関する情報を、超重要事項として強制的に暗記させられた事』まで覚えていた。あなたの電話番号を……この時点の私が覚えているのは、明らかに異常。間違いなく、世界の終わりは、夢じゃない」
「……この時点の私? それって、どういう」
「今日は、5月17日。つまり、今は、あなたが、ロイガーを殺した日の朝です」
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