53話 クレーマーのおかわり。


 53話 クレーマーのおかわり。


(これだけ、覚醒して、覚醒して、覚醒して……それでも、俺はまだ、相手になってねぇ……いい加減にしてほしいぜ、ほんと、マジでぇ)


 ギリギリと奥歯をかみしめながら、

 自分の境遇を呪いつつも、

 しかし、集中力は高く保ったまま、

 どうにか、突破口がないものかと、

 注意深く、周囲を観察するセン。


 これだけ絶望的状況下でも、

 諦めずに、必死になって、

 『今』と向き合い続けた。


 だから、気づけたことがある。


(この分身どもは、どちらかといえば、『剣』ではなく、『盾』としての役割が強い……ポケ〇ンでいえば『みがわり』人形みたいなもの……)


 手数として換算しているというより、

 受けのコマとして運用している感が強い。



(まともに相手をするのは悪手。それよりも、切り抜けて、本体を殺した方が合理的……問題は、それを可能とするだけの機動力が俺には足りないってこと……)



 本体に詰めようとしても、アバターラたちに邪魔される。

 アバターラの妨害をぶっちぎれるだけのムーブが出来なければ先には進めない。


(……もう一段階だ……)


 センは、自分の中へともぐりこんでいく。


(もう一段階、ギアを上げられれば……ギリギリ、届きうる……)


 ここまで、

 まるで『バーゲンセールのつかみ取り』のように、

 覚醒を繰り返してきておきながら、

 しかし、まだ『おかわり』を求める強欲なセン。


(俺の可能性は、まだ残っているはずだ……地獄の一週間を1000回も繰り返してきたんだ……4~5回くらいは覚醒したってバチはあたらねぇだろぉ!)


 心の中で、むちゃくちゃな理論を展開させつつ、

 センは、自分自身の奥へ、奥へ、奥へと、ダイブする。


「もう一回、目覚めろ! なんでもいいから開け! あるはずだ! 俺が積み重ねてきた地獄には、その可能性が、絶対にある! ないとは言わせねぇ! 言わないでください、頼むからぁああ!」


「無様だな。奇跡を頼るようになったら終わりだ」


 などと、煽ってくるマイノグーラに、

 センは、怒りマークいっぱいの顔で、


「奇跡なんか頼るかぁ! 俺の運は、よくも悪くもないんだ! 奇跡や偶然に頼ったりなんかしてやらねぇ! 俺が頼っているのは、俺が刻んできた道だけだ! 俺は繰り返してきた! 積み重ねてきた! 俺には、残念ながら、『才能』なんてもの、一ミリたりともなかったが! しかし! 『繰り返せる』という器だけはあった!」


 それだって、生まれつきのギフトではない。

 センには、ギフトなんて何もない。


 ただ、磨き上げただけ。

 精神力というヤスリで、

 『バカみたいに、磨き続けてきた』というだけの話。


「前金は死ぬほど払ってきた! これだけ前払いさせておいて、報酬が質素だなんて、そんなボッタクリ、絶対にゆるすかぁ! せめて、覚醒もう一回分は貰う!! そうじゃないと、さすがに、割にあわねぇええ!!」


 めちゃくちゃなことを言い続けるセン。

 完全に、重度のクレーマー。


 マイノグーラが、


「いくらなんでも、それ以上の覚醒などあるわけが――」


 と、呆れ交じりにそうつぶやこうとした、

 その時、


「おぉお! きたぞぉおお!」



 センは、自分の奥からこみあげてくる光を感じた。


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