49話 主役は俺だ。お前じゃない。


 49話 主役は俺だ。お前じゃない。


「……『てめぇ』の方が高性能なのは知っている……『てめぇ』が誰か知らねぇが、てめぇが、世界で一番、俺をイラ立たせる存在だという事も知っている……」


『ワシの方が上やと認めるなら、ワシに任せればええのに。お前、もしかして、アホなんか?』


「俺は引くほど頭が悪いよ。だから前に進める。少しでも賢かったら、とっくに自殺している。賢い命は、この歪んだ世界で生きていけねぇ」


『その理論が正しいとすると、ワシもアホということになるなぁ。自殺を考えたことは、あんまりない。ゼロとは言わんけど』


 その言葉に対し、

 センは、まっすぐには応えなかった。


 いや、これまでの返答も、すべて、まったく、まっすぐではないが、

 しかし、もっとゆがんだ想いでもって、

 センは、そこから先の言葉を紡ぐ。


「――『てめぇ』が嫌いだ。似た者同士でありながら、いつだって俺を置き去りにしていくお前を、俺は絶対に許さない。てめぇなんかに譲るぐらいなら、この荷物を抱えたまま死んだ方がはるかにましだ」


 言いたいことを一通り言ったあとに、




「主役は俺だ。おまえじゃねぇ、すわってろ」




 そう宣言してから、

 センは、ぶっ飛んだ目でマイノグーラをにらみつける。


 完全にラリった瞳だが、

 しかし、光だけは灯っていた。


 その目を見て、マイノグーラは、


「おかしな人間だ。『最も尖った絶望』で、貴様の精神を削ったというのに、どうして、貴様の目には光がともっている? 私は追い打ちをかけたはずなのに、どうして、貴様の気力は回復している? 意味がわからない」


「俺を相手に、合理的な理屈なんか求めても仕方がねぇんだよ。俺自身は、いつだって、『なるべく、合理的かつ論理的な人生を生きたい』と願っているが、しかし、実際のところは、まったくうまくいってねぇ。自分でも、自分のことが、基本的に、まったく理解できてねぇ。どうして、ここまで頑張れるのか、俺は俺を一ミリも理解できてねぇ。もっと普通の人間だったらよかったのに、と、無意味なことを願いながら、それでも、時折……つぅか、『こういう場面』では、いつだって、『俺が俺でよかった』とも思う。だって、だからこそ……俺がバチバチにラリっているからこそ……」


 オーラが膨れ上がる。

 魔力が練り上げられる。


 とっくに底をついているはずの全部が、

 おどろくほど力強く沸騰する。




「守りたいものを守れる。とりあえず、今は、それだけが全部でいい」




 理解と覚悟が一致する。

 一つになって、自由になる。




「――虹気――」




 そうつぶやいたと同時、

 センのオーラの質が変わった。


 ふと、頭に浮かんだ言葉が、実像の輝きとリンクして、

 センエースの全てを包み込んだ。


 センの全身を包み込む虹色のオーラは、

 それまでの輝きとは性質が随分と異なる。


 力強いかと言えば、そういうわけでもなかった。

 なんだか不思議なまたたき。


 方向性は不明だが、

 しかし、間違いなく加速している、

 という感覚だけはあった。


 ソリッドの利いた鋭角の補助線。


 自分自身を包み込む虹色の輝きを見つめながら、

 センは、ボソっと、



「諦めることを諦めた時、いつだって、俺は、少しだけ自由になれる。この感覚が……俺は少しだけ好きだ。大好きじゃねぇけどな」

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