23話 歪なドリームオーラ。


 23話 歪なドリームオーラ。


(あいつ、俺の生命力を拒絶した? 確率は少しでも底上げしておいた方がいいと思うんだが……)


 と、そこで、センの頭の上に、電球がともる。


(……もしかして、あいつ……ファーストゴーレムのヘイトを、うまくコントロールできなかった時の保険で、俺の体力を残しておいたのか? もし、そうだとしたら、常軌を逸した胆力の持ち主ということになる。この突発的危機的状況下で、完璧な冷静さを保っていたれるという、もはや、醜いほどの、したたかさ。……あんなクソ陰キャが、世界の主役なんて張れるもんなのか、と、かなり懐疑的に見ていたが……もしかしたら、それなりの器の持ち主なのかも……)


 などと、センが考えている間も、

 才藤は、過度の全力疾走で、

 ゴーレムのヘイトを集めながら、


「おい泥人形! あそこに『弱っているメスブタ二匹』と『オマケのカス一匹』が、殺される瞬間を、いまかいまかと首を長くして待っているぞ! さあ、友よ! お望みどおり、魂ごと焼き尽くしてやれ! 慈悲なんざクソ喰らえだぜ、相棒! なんなら、肩でも揉みましょうか、先輩!」


 すると、ファーストゴーレムの真っ赤な一つ目が、

 当然のように、クルンと反転し、逃げる才藤をロックした。


 ――固定されたその視線を見て、

 才藤は、慌てて、


「ちょっ、なんで、こっち向い――」



『2、1、0。――発射』



「うお! ちぃ! くそったれ! 俺は祈る! 俺が死なない事を!」


 唯一使えるスキル『天に祈る』発動。

 鈍く輝く青白い光が、才藤の全身を包む。


 センは、才藤を助けるつもりだった。

 死ぬ直前に助けてやろう――と、思っていたのだが、


(――ドリームオーラ……っ?)


 才藤の体を、包んだ輝きに目を奪われて、

 動きがストップしてしまった。


(なんとも歪な波形……おそろしく堅牢……しかし、どこか、酷く脆そうな、ワケのわからん型式……)


 などと、センが、小首をかしげている間に、

 ファーストゴーレムの咆哮が発動。

 ピカっと、極悪な闇の灯が瞬く。


 超高火力のレーザーで撃ち抜かれ、

 才藤の体に絶望的な衝撃が走った。


「がはぁあああああああっっっっっ!!!」


 生命力バリアを貫通して肉体に純粋な痛みを与える、

 『貫通属性』の攻撃。


 あまりのインパクトに、

 一瞬、全身が砕け散ったかのような、

 えげつない錯覚に陥った。


(くぉぉ……ぬぅ……痛ぇえ……生命力バリアを無視する貫通ダメージなんて設定するんじゃなかった。……なんか、俺、後悔してばっかりだな……ああ、死ぬほど痛ぇ……)


 体がプスプスと黒煙を吐いているが、


(ま、まあ、でも……祈り、届いたみたいだな。完全オーバーキルの攻撃をうけたのに、ミリ残った。完璧に想定通り。けど、これ、きっつぅ……)


 全てが計算通り。

 ゆえに覚悟はできていた。


 ――そんな才藤のもとに、

 聖堂が、すぐさま駆け寄ってきて、

 才藤の全身をくまなくチェックしていく。


「死んでいないな」

「ああ。ギリだけどな。ぁ、殴るなよ。今、HP1で、デコピンでも死ぬ状態だからな」


「……いいか、クズ。よく聞け。貴様を殺すのは私だ。勝手に死ぬのは許さない」

「状況を見てモノを言えよ、ったく」


 そんなやり取りをしている間もプスプスと煙を出している才藤。

 そんな彼を指さし、


「あはは! ばかだ、あいつ! あたしを囮にしようとして、結局、自分が囮になってやんの! だっさ。きっも。しねば? もう、いっそ、死ねば?」


 腹をかかえて笑う華日。


 そんな華日を横目に、

 センは、


(……これが正常の反応だな。そして、おそらくは、才藤が望んでいたリアクションでもある。……生き残れたのは、天に祈るが発動したおかげ……つまりは完全に偶然で、さっきの攻撃で、才藤が死んでいた可能性は十二分にあった。命がけで、他者を守りながら、嫌われることも望む……アホなのか、あいつは)

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