22話 天に祈る。


 22話 天に祈る。


「つい数分前に、しっかりと名前を添えた自己紹介をしたばかりなんだけど……まあ、それはいいや。単純な話だ。俺が盾になってやるから、生命力をよこせ」


 才藤の言葉に、二人は、同時に目をキュっとさせた。


「俺の職業『村人』は『天に祈る』というパルプンテみたいなスキルが使える。祈りが届くかどうかはゲームマスター次第で、無茶な祈りは届かないが、『死にませんように』って祈りは比較的届きやすい」


 この場合に叶う願いを具体的に言えば、タンク系だけが持つスキル『リーヴ(オーバーキルダメージを受けてもHPが1だけ残る)』が、持っていないのに発動したりする。


「そして、天への祈りは、TRPG的な表現になるが、『理』があればあるほど、あるいは、『現実になりうる確率』が高ければ高いほど通る確率は高い。この場合だと、俺の生命力が高ければ高いほど届きやすい。そんなスキルを持っている上、運よく現状HPが満タン状態の俺が肉壁メイン盾を志願。非常に合理的な提案だと思うのは気のせいか?」


 『一理なくもない』という表情を見せて黙る華日とは対照的に、

 聖堂が、苦虫をかみ潰したような顔で、才籐の元まで近づき、彼の胸倉を掴んで、


「貴様は……また……」


「余計な事をしている余裕はない。さっさと生命力をよこせ。それとも全員で仲良く死ぬか? 俺、お前と一緒に死ぬのとか絶対に嫌なんだけど」


 そこで、才藤は、

 聖堂の耳元で、コソっと、


「言っておくが、俺は、絶対に『やる』からな。それを踏まえた上で聞くぞ。生存できる確率を上げるか? それとも何もしないか?」


 それを聞いた聖堂は、

 まったく納得した顔をしていない、

 酷く苦々しい表情を浮かべ、


「……くっ……ちぃ!」


 渋々、右手を才籐に向ける。

 ゆらゆらとした深碧(しんぺき)の光が、才籐の体に流れ込んでいく。


 ――それを見て、華日は、

 枝毛一本ない銀髪を右手でクシャクシャしながら、


(現状において、合理的かどうかなんて、さほど問題じゃないわね。重要なのは信頼をどこに置くか。時間がない以上、ぐだぐだ考察しているヒマはない。誰の何を信じて決断をくだすか)


 深く悩む。

 平時であれば、滅多に崩れることのない整った銀髪がクッシャクシャになる。

 本気で頭を使う時のクセ。


(あの、聖堂とかいうパラノイア……性格はともかく、能力は非常に優秀。その聖堂が黙って信じた相手。うーん……とても信じるに値する男とは思えないのだけれど……)


 非常に悩んだが、


「はぁ……ちっ、ったく」


 最後は、生まれて初めて『自分と同じくらい優秀だ』と認めた同級生の判断を信じる事にした。


 聖堂以上の渋々顔で、才藤に、己の生命力を流しこむ。


 パァアっと、力強い深緑の輝きが才藤の体を包み込む。


 二人の生命力を得た才藤に、

 センが、


「俺も渡した方がいいか?」


 そう問いかけると、才藤は、


「…………いや……いらん」


 なにやら、『含み』のありそうな拒絶の言葉を口にしてから、

 一瞬だけ、何か、覚悟を決めたような顔をして、

 美少女たちに視線を向け、



「ひひ」



 悪い顔でニヤっと笑い、



「ばかが! あっさり信じやがって! まさか、この俺が、善意で他人を助けるとでも思ったか?! ぼけぇ! お前らの盾になんか、なってたまるか! あほんだらぁ! 俺だけ生き残ってやるぜ!」



 高笑いをしながら、3人を残して走りだす。

 あまりの驚愕に声も出ない華日に向けて、

 才藤は、


「つーか、マジ、どんだけ、おめでたいバカ女なんだよ、お前! 出会ってから一秒足りとも好印象を抱かなかったお前なんざ、誰が守るか、あほんだらぁ! そこにいるラリったパラノイアと一緒に死にやがれ!」


 才藤の『最低』ぶりを目の当たりにした華日は、


「……な、なんて模範的なクズ野郎なの。あれほど見事なカスは見たことがないわ」


 わなわな震えながら、そうつぶやきつつ、

 聖堂をキっと睨み、


「ちょっと、あんた! なんで、あんなカスを信じ――ん?」


 視線を向けた先で、聖堂は、ボソっと、



「……バカの一つ覚えが……」



 そうつぶやいて、歯ぎしりしながらうつむいた。


「?」


 苦悶の表情を浮かべている聖堂の顔を、訝しげな顔で見つめる華日。


 その奥では、センが、真摯な目で、才藤を見つめている。

 センは黙ったまま、心の中で、


(……聖堂たちとの闘いを見ている限り、おそらく、あのゴーレムは『動いているやつに対して強めのロックオン機能が働く仕様』っぽい。この戦いの『本質』が、『チュートリアルである』というのが事実なら、たぶん、あのゴーレムは、『タンクと連携の重要性』を学ぶことが目的の敵。となれば、特定の行動をとることで、狙ってヘイトを集めることは可能。……才藤のムーブは、それに気づいた上での行動……のような気がしてならないんだが……クズの演技がうますぎて、実際のところ、どっちなのか、ちょっとわからねぇな……つぅか、なんで、あいつ、俺の生命力を拒絶した? 確率は少しでも底上げしておいた方がいいと思うんだが……)

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