26話 センエースの方が弱い。

 26話 センエースの方が弱い。


「お前の本名、流石に、長すぎだ。お前は、蓮手でいい」


「……ま、別にいいけどな」


 そのセリフを皮切りに、

 センと蓮手の死闘が始まった。



 センの初手は、校長室の窓をぶち割って、外に出ること。

 彼女たちの死体がある部屋で暴れたくはないという意志の表明。


 外に出たセンは、

 持てる全てを賭して、

 蓮手と向き合った。


 チリチリと高濃度の火花が舞う。

 両者の間では、高次の対話が繰り広げられた。


 戦闘開始から1分が経過したところで、

 センは確信した。


(こいつは、ウムルよりも強い……厚みが違う……)


 これまでにセンが見てきたGOOの中で最強は、

 間違いなくウムル=ラトだったが、

 この瞬間に、記録が更新された。


 蓮手こそ、センが知る中では最強のGOO。


(茶柱が本気を出したとしても、コレが相手だと話にならない……どれだけ頑張っても、間違いなく瞬殺されるレベル)


 その考えに至った直後、

 センは、手を休めることなく、

 蓮手に、


「茶柱たちをどうやって殺した?」


「それ重要か?」


「ああ、重要だ」


「あ、そう」


 そこで、蓮手は、ワンクッションおいてから、


「いたぶって殺した。あまり、時間をかけすぎると、お前が感づいて、助けにきてしまう……みたいな可能性もあったから、シッカリとした拷問はできなかったが、一通りの絶望は味わってもらった。楽しかった。またやりたいです。まる」


 夏休みの絵日記風に応える蓮手。

 センの血管がムクムクと膨れ上がった、

 が、


「すぅぅぅ……」


 センは深い呼吸を徹底し、

 感情の全てを、自分の奥へ奥へと押し込んでいく。


 その様子を見て、蓮手は、ニっと笑い、


「怒りを暴走させることなく、すべて、丹田にブチ込んだか。くく……改めて思うが、お前の戦闘力は、本当に完璧だ。すべてが美しい」


 言ってから、蓮手は、

 胸の前で、両手を合わせて、印を結んで、


「オーラドール・アバターラァァ!」


 五人のアバターラを顕現させ、

 全部で6人になる蓮手。


 数の有利をフルに活用し、

 四方八方から襲い掛かる蓮手×6。


 この危機的状況に対し、

 センは、驚くほど冷静に、


(分身5体は、明らかに動きがトロい……)


 アバターラの動きを分析していく。


 相手の手数が増加したのに対し、

 センは、出力を抑え反応速度を加速させていくことで対応していく。


(増えたのは手数だけ……『DPS(単位時間火力)』はそこまで上がってねぇ。精々、50%UP程度。この程度なら、余裕でこそないが、どうにか処理できる)


 冷静に、丁寧に、

 センは、蓮手の猛攻に対処していく。


 『あらゆるすべて』に対して、完璧な対応を施している中で、センは気づく。



(俺の方が弱いな……)



 『全て』を計算した上で、はじき出した答え。

 ――センエースの方が弱い。


 もし、この戦いが『ターン性のRPG』なら、

 センは確実に負ける。


 しかし、


「俺より強い程度の雑魚が……俺に勝てると思うなよ……っ」


 だからこそ、

 センの魂魄は沸騰した。

 絶望を前にして、命が興奮している。


 ドン引きするほどの逆境だからこそ、

 センエースの魂魄は煌々と輝く。

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