7話 クソ陰キャはクソ陰キャの夢をみるか。


 7話 クソ陰キャはクソ陰キャの夢をみるか。


「タイプの女子の前でカッコつけようとするのは、男の本質。それだけの、極めて単純な話だよ。俺は神様じゃないし、イケメンでもない、どこにでもいる量産型汎用一般人だけど、だからこそ、好みの女の前では、そこそこちゃんと頑張るのさ」


 そんな、イカれた言葉を残して、


「じゃあ、俺はいく。ピンチになったら呼んでくれ。行けたら行くから」


 センは、その場をあとにした。


 階段を下りている途中で、

 天童が、テレパシーで、


『会ったばかりのギャルを全力でナンパとは……お前、思ったよりも、だいぶチャラいな』


「そう思われても仕方がないとは思うが、しかし、俺は別に、チャラ男じゃねぇ。あの女は、何がどうとは言えないんだが、とにかく全力でヤバそうだったから、釘を刺しておいた、と言うだけの話だ。あと、普通に、マジでタイプだしな。俺のストライクゾーンは、なかなか狭いという自負があるんだが、あいつは、まあまあど真ん中だった」


『お前のタイプは、おしとやかな大和撫子じゃなかったか?』


「なんで、お前、俺のタイプを知ってんだよ。きしょいな。俺のファンなの?」




 ★




 センの背中が見えなくなるまで見届けたあと、

 酒神は、壁にもたれかかって、天を仰ぎ、


「……あれは……この世界を創った神じゃない……」


 ボソっとそうつぶやいた。


「……」


 自分でつぶやいた言葉に、

 酒神は、自分で疑問符を抱く。


「なぜ、そう思った?」


 自問自答をしてみる。

 しかし、答えなど出るはずもなかった。


 ただ、


「……あれは違う……分からないけれど……たぶん、違う……」


 あいまいな確信。

 ブレブレの矛盾の中で、

 彼女は、

 しかし、


「……なに、この感情……」


 自分の胸に抱いた感情が理解できず首をかしげつつも、

 しかし、妙に暖かさを感じる。


「まるで、実家のような安心感……」


 ボソっとつぶやいて、

 そして、また首をかしげる。


「……わからない……どうしよう……」


 自分を見失ったことは、

 これまでにも、何度かあるが、

 しかし、こんな、『全体像すら見失ったこと』は初めてだったので、

 酒神は、心底から戸惑った。


 どうするべきか悩み、

 しばらく、立ち往生してしまった。




 ★




 教室に戻ったセンは、

 曖昧な記憶を頼りに、

 自分の席につく。


 そこは、才藤零児の隣の席だった。


 席についた直後、センは、チラっと才藤を確認する。


(この才藤とかいうクソ陰キャ、目つきが終わってんなぁ……)


 と、心の中でつぶやく。


 ちなみに、その時、

 センに見られている才藤も、

 心の中で、


(なんか、隣のクソ陰キャに睨まれてんな……なんでだ? つぅか、興味ゼロだったから、今まで気づかなかったけど、こいつ、目つきが終わってんなぁ……)


 ボソっとそうつぶやきつつ、

 センの視線から外れようと、

 無駄に、窓の外へと視線を向ける。


 お互いが、お互いのことを、

 全力で『やべぇやつ認定する』という、

 奇異な状況。


 センエースの現場は、いつだって、不純物でいっぱいの濃厚なカオスが渋滞している。

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