6話 ナンパ。


 6話 ナンパ。


「オイちゃんの目はごまかせまちぇん。あんたは、この世界の神でちゅね?」


「女神を自称するなら『相方の神様』を見間違えないでもらえます? 俺は、ご覧の通りの、単なる一般人ですよ」


「ただの一般人は、そんな、宇宙の真理を体現しているような瞳はしていまちぇん」


「……え、俺の瞳、いつの間にか、宇宙の真理を体現できるようになってたの? 知らんかったなぁ……どうやっているんだろう。鏡を見たら分かるかな……きっと、分からないだろうなぁ」


 ファントムトークで、のらりくらりと逃げようとするセンに、

 酒神は、


「オイちゃん、神様にあったら、どうしても言ってやりたいことがあったんでちゅよ」


「そうか。じゃあ、神様に会った時には、ビシっと言ってやれ。あ、伝言頼んでもいいかな? 俺も神様には言いたいことが、いくつかあるんだ。『いい加減、俺の人生難易度をもてあそばないでください、お願いだから』って伝えてくれる?」


 センのファントムをシカトして、

 酒神は、




「――どうして、こんな醜い世界を創ったんでちゅか?」




 氷のような目で、そう尋ねてきた。


 その問いに対し、

 センは、


「……」


 押し黙った。

 酒神の問いかけが、

 『ただのハンパな冗談ではない』と、

 なぜか、心の奥底で、強く強く強く理解できたから。


 ファントムトークの出番じゃない、

 と、魂魄の芯が叫んでいる。


「……」


 10秒に届く勢いの『たっぷりな間』を思考に費やしてから、

 センは、おもむろに口を開く。




「……確かに、ウゼぇところも多いけど、世界ってのは、ただカスなだけじゃねぇ」




 過剰なほど真摯に、

 心底からの本音で、


「……『守るべき価値がある』と『素直に思えるだけの何か』は……たぶん、あった。具体的に何がどうとは言えんけど……この世界は、もちろん、基本的には醜いのだけれど……けど、経験上、『ただ醜いだけじゃない』ってことを……俺は知っている」


 経験値を語る。

 存在値でもって、

 実績のある実数値を、

 『積み重ねてきた重たい言葉』で飾る。


「……この先、もし、『どうしても本当に無理になった』という、その時は、とりあえず、一度、俺を頼ってみろ。その結果がどうなるかは断言できんし、そもそも何ができるわけでもないけど、あんたのヒーローになる努力ぐらいは、してやらなくもない」


「……なんで?」


「ん?」


「なんで、そんな努力をしてくれるんでちゅか?」


「……どっちかって言ったら、あんたが、好きなタイプだからかな。俺は『異性の好み』が非常にうるさい厄介な男なんだが、あんたは、ボーダーをこえている。合格!」


「……ギャグなのか、ガチなのか、判断に迷うところでちゅねぇ」


 マジで判断に迷ってうろたえている彼女に、

 センは、たたみかけるように、


「迷う必要は一切ない。タイプの女子の前でカッコつけようとするのは、男の本質。それだけの、極めて単純な話だよ。俺は神様じゃないし、イケメンでもない、どこにでもいる量産型汎用一般人だけど、だからこそ、好みの女の前では、そこそこちゃんと頑張るのさ」


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