38話 センエースは、まだ弱い。


 38話 センエースは、まだ弱い。



「――異次元砲」



 クルルーが放ったのは、

 一点集中の照射。

 美しい魔力の結晶。


 その膨大なエネルギー量は、

 今のセンに対応できる数値を超えていた。



「い、い、異次元砲ぉお!!」



 センは、慌てて合わせるが、

 しかし、当然、火力が違いすぎて、

 グイグイ、グイグイと押し込まれていく。


(……あ、こりゃ、ムリムリ。耐えられねぇ……っ)


 根性や気力でカバーできる範囲を大幅に超えていた。


 力強く、グンと押し込まれて、

 センの異次元砲はかき消される。


「だぁああああああああああああああああああああっっっ!!」


 インフィニットクルルー・ニャルカスタムの異次元砲をモロにくらったセン。

 普通であれば、影も残さず消え去るところだが、

 しかし、センの肉体は現世に残っていた。


 もちろん、インフィニットクルルー・ニャルカスタムが、『消滅しないように調整をほどこした』から。

 単純に『殺す気はない一撃だった』から。



「げほっ……がはっ……ぅ……っ」



 死ぬ一歩手前で蠢くセン。

 朦朧とする意識。

 思い通りに動かない手足。


 そんなセンに対し、

 クルルーは、冷めた声で、


「……改めて認識してもらおうか。私は、クトゥルフ・オメガバスティオンの半分の力しか持っていない」


「……」


「クトゥルフ・オメガバスティオンは、私の倍の力を持つ。いや『最低でも倍』と言った方が、より正確な表現となるかな。クトゥルフ・オメガバスティオンは、数字だけのハリボテではない。私とは違う。オメガと比べれば、今の私ですらハリボテ。オメガは、ある意味で、貴様以上の……いや、それは流石にニュアンスが異なるか……まあ、とにかく、貴様と同程度と言っても過言ではない。それほどの質量を持つ『イカれた狂気』を内包している本物の化け物。今の貴様では、どうあがいても、絶対に勝てない」


「……」


「刻みこめ。心に。魂に。貴様を形成している全てに。貴様が、これから、何をしなければいけないか。絶対に忘れるな。クトゥルフ・オメガバスティオンは、最強の銀メダリストだ」


「……最強は……金メダリストだろ……山ほどの矛盾を並べやがって……」


 どうにか、言葉を返しながら、

 必死に、自分を支えて立ち上がるセン。


 痛々しいズタボロの姿だが、

 しかし、それでも、立ち上がる。


 『だからこそ見える風景』がある。

 『そうでなかれば見えない風景』がある。



「……よくわかったよ……俺は、まだ弱い……」



「いや、貴様は強い。ただ、クトゥルフ・オメガバスティオンは、その向こう側にいる」


「ウザったい話だ……勘弁してほしいぜ……」


 そうつぶやいてから、

 センは、クルルーを睨みつけて、


「……なぜ、俺を殺さない?」


「アッサリと死ぬよりも、現状の方が辛いだろう?」


「……最低な甚振(いたぶ)り方だな。そのセリフ一つに、底意地の悪さが、これでもかと、にじみ出ている」


 と、そこで、

 センの背後に、ニャルが這い寄ってきて、


「さて、そろそろ、このデモンストレーションも終わりにしようか」


 ニタニタと笑いながら、


「どうだい、センエース。少しは楽しめたかな?」

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