25話 センエースは、なぜ、立つのか。


 25話 センエースは、なぜ、立つのか。


「なんで、俺ばっかり! どうして、俺ばっかりが、こんな苦労をしないといけないんだ! しんどすぎるんだよ、ずっと、ずっと、ずっとぉおお! いい加減にしてくれぇええ!」


 センエースの悲鳴を、

 ヨグシャドーは、黙って見届ける。


「もういいだろぉおおおおお! もういいはずだぁ! 俺なら許可をもらえるはずだっ! 諦めていいはずだろぉ! なのにぃ! なのにぃい! なのにぃいいいいい!! なんでぇえええええええええ!!」



 ユラリと、センの肉体が動いた。

 絶望の『底』で、センは蠢く。

 みっともなく、涙と鼻水をたらしながら、


 それでも、どうにか、

 必死になって立ちあがり、



「はぁ、はぁ……」



 呼吸あらく、涙のかすむ声で、


「はぁ……はぁ……くそったれ……なん、で……立つんだよ……」



 ぶつぶつとつぶやきながら前を見る。

 中心が折れそうになっても、気付けば、いつだって、拳を固く握りしめていた。


 そうやって、センエースは生きてきた。

 『こういう生き方しかできない』というわけではない。

 別に、このまま『動かない』という選択をすることだってできるのだ。

 ――しかし、それだけはしない。

 絶対にしてやらない。


 意志の問題。

 意地の問題。

 感情の問題。

 覚悟の問題。


 色々な問題を心に抱えて、

 センは、今日も顎をあげて前を見る。



「……俺は……ヒーローじゃない……」



 その言葉を受けて、

 ヨグシャドーは、


「ああ、知っているさ」


 と、輝きを伴う言葉で応える。

 センは、奥歯をかみしめ、


「それでも……」


 銀の鍵を握りしめる力が強くなる。

 ギュウギュウと、拳の中で圧迫される。


 そこで、センは、深呼吸をする。

 深く、長く。




「……俺はまだ……頑張れるっっ!!」




 覚悟を叫ぶ。

 その叫びに、銀の鍵が呼応する。


 ふたたび、

 センエースは、時空の旅に戻る。


 ――地獄は終わらない。






 ★






 一日目の朝に戻ったセンは、


「……なんで、戻るかねぇ……あの場で死んでおいた方がはるかに楽だってのに……」


 ぶつぶつと、自分の選択に文句をいいつつ、


「……まあ、いい。そんなことを言いながら、どうせ、俺は、同じ選択肢を取り続ける。なんせ、すげぇバカだからな」


 などと言いながら、

 自分の強さやアイテム等が、

 すべて、『確実に持ちこされているか』を、

 シッカリと確認していく。


「全部あるな……俺の強さはアウターゴッド級。今の俺なら、ニャルが召喚するクルルー・ニャルカスタムぐらいなら余裕で殺せるだろう」


 などと、この先の事を考えつつ、

 スマホのインカメラで自分の顔を確認するセン。



「……10代の俺、若いなぁ……なつかしいねぇ……こう見るとあれだな……『30代のころの俺』って、若干、生え際が後退していたんだな……俺、おそらく、50代になるころには、M字型にハゲるな……いやだなぁ、ベジ〇タにはなりたくないなぁ……」



 などと、オッサンくさいことをつぶやいてから、

 カメラモードから、電話モードに切り替えて、

 黒木に電話をかけた。


 数回のコールのあと、


「……はい……誰ですか?」

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