22話 エースガールズは猪突猛進。
22話 エースガールズは猪突猛進。
座って小を為すことに抵抗がないセンは、
大便器に腰かけたまま、尿意を発散させつつ、
(このまま時が止まればいいのに……)
などと、アホ全開をつぶやいた直後、
軽く首を横に振って、
(――とはさすがに思わんけれども……もう少しだけ、この豊かな時間の中にいたい……というか、単純に、あの喧噪の中に戻りたくない……)
すでに、ションベンは終わっているが、
しかし、センは、しばらく、個室の中にとどまった。
その様子を見かねたヨグシャドーが、
(いつまでそうしているつもりだ? はやく教室に帰らないと、大変なことになるぞ)
(大変なことってなんだよ)
(いちいち説明するのも面倒だ。てめぇで勝手に想像しろ)
(……挑発的じゃないか……)
心底ウザそうにそうつぶやいてから、
(あーあ……クッソだるいなぁ……)
と心の中で、深いため息をつきつつ、
センは腰をあげた。
軽く手を洗って。
トイレから出たところで、
「あの、さぁ……」
知らん女子から声をかけられた。
――正確に言うと、まったく知らないというわけではない。
というか、実は名前も知っている。
彼女は、仙道麻友。
『センが武道大会で優勝した際』に発生する『エースガールズ』の一人で、
その中でも『センのルックスを普通にカッコいいと思うタイプ』の、
いわゆる『蓼(たで)を食う虫』である。
実のところ、彼女は、
特に理由なく、最初から、センに対して片思いをしていた女の子。
単純に、センの顔面がタイプであり、恋に恋する流れの中で、
ひそかにセンを想っていた系女子。
そういう『イカれた前段階』をもっている女子なので、
センが武道大会で優勝した際には、
ニワカどもに負けないよう、
一際大きな声で、センに黄色い声をあげるので、
センからも普通に認知されているのである。
「K5と結婚したって噂、本当?」
と、直球で切り込んだ彼女のことを、
周囲の人間は、『勇者を見る目』で見つめている。
耳をすまして、センの返答を待っている周囲の有象無象と、
『恋する女子真っ只中』の顔で返答を待っている彼女。
そんな鬱陶しい状況の中で、
センが出した答えは、
「正確に言えばしていない。あいつらが提出した婚姻届けに書かれている『俺のサイン』は偽造だからな。しかし、それを大声で訴えたところで、俺の声が裁判官の耳に届くことはない。あいつらの偽造は完璧すぎる」
「……ぎ、偽造?」
「目茶苦茶な話だよ。一般小市民の一人でしかない俺は、あいつらに振り回されて疲弊するしか道はない。このまま俺は、緩やかに壊れていくだろう。……悲しい話だ」
疲れた目で、フっと笑うセンに、
仙道麻友は、
「あ、あの……よくわからないけど、もし、本当に、困っているなら、私のお父さんを紹介しようか? 実は、けっこう大きな弁護士事務所の代表をやっていて……」
「紅院家が抱えている最強弁護団を相手に闘いを挑もうとする法律屋はいないと思うが?」
「結果はともかく、私が死ぬ気で頼めばお父さんは動くよ」
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