69話 バケモノ。


 69話 バケモノ。


「お前が言うバケモノってのは、これで間違いないか?」


「……ぇ、ええ……」


 改めて理解したトウシの異常性に対し、

 つい、普通に、恐怖心を感じた紅院。


 『助けてくれた』というのは理解しているが、

 しかし、自分(紅院美麗)を大幅に超える力に、

 どうしても、多少の畏怖を覚えてしまう。

 みにくい人間の性。


 そんな彼女の恐怖心すら、正確に理解できてしまう出木杉の頭脳を持つトウシ。

 普通なら傷ついたりもするのだろうが、しかし、

 トウシさんは、絶妙に人間性が壊れているので、

 『助けた美少女にビビられる』という絶望的状況に対して、

 特に感情論を持ち出すことはない。


(今のワシは強すぎるから、まあ、そら、怖いやろうな)


 と事務的に処理していくだけ。


 トウシは、いったん、ツァールの首から手を離して、

 地面に落とすと、背中にある体軸の中心を踏みつけて、

 自力では動けない状態にしてから、


「一つ質問。お前を殺したら、この空間は消えるか?」


「うぅ……っ……わ、私が死ななくとも、私が撤退すれば、消える! だから、頼む! 助けてくれ!」


「……んー、どうしよう……ワシにとって有益な情報を与えてくれるんやったら、考えんでもないけど?」


「あ、えっと、じゃあ! このあとで、アウターゴッドのウボを名乗る神話生物が現れるんだが、しかし、そいつは、アウターゴッドではなく、S級GOOのイグだ」


「このあとって……お前が撤退したら、ここは消えるんとちゃうんかい」


「ぁ……いや、えっと……消えるまでタイムラグがあって……それで、その……」


「ふむ……ちなみに、言うておくと、この空間に、もう一体、潜んどることぐらいは、普通に分かっとる……そいつの力が、さほど大したことないってこともなぁ」


「……」


「何か、他にワシにメリットはあるか?」


「……いや……あの……その……」


「ないようやな」


 そうつぶやくと、

 トウシは、グンっと体重を乗せて、


「ぎゃぁあああっ!」


 情け容赦なく、ツァールの中心を踏みつぶす。


「ワシの世界に不法侵入してきて、知り合いを拉致って殺そうとしたバカを許す理由なんかない」


 たんたんと、言葉を並べつつ、


「次は、お前や」


 そう言いながら、

 亜空間に手を伸ばす。


 トウシの標的は、必死に逃げようとしていたが、

 しかし、今のトウシから逃れられるはずもなし。


「やっ……やめっ――」


 首を掴まれて、目の前まで引きずりだされたイグは、

 必死の命乞いをしたのだが、


「ふんっ!」


 トウシは、迷いなく、

 イグの頭を地面にたたきつけて爆散させた。


 完全に死亡したイグを、その辺にポイと投げ捨ててから、

 首をまわし、肩をまわし、


「これまでの流れから鑑みるに、どうせ、お前らも、パワーアップして復活するんやろ? 相手になったるから、さっさと復活せぇ」


 別に、その命令に応えたわけではないのだが、

 ツァールとイグの死体が、

 ぐにょぐにょと蠢いて、

 数秒後には、

 パワーアップした状態で復活した。


 再生によって、両者とも、強大な力を手に入れたわけだが、

 しかし、喜悦や高揚感などは微塵もなく、

 ただただ震えていた。

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