15話 ルナティックがとまらない。


 15話 ルナティックがとまらない。


 雑誌に目を通してみると、

 事実、目の前にいる女のキラキラした写真がバンバン掲載されていた。


 同時掲載されている他の連中が可哀そうになるほど、

 酒神華日は、ダントツで輝いていた。


(まあ、写真は中身がうつらねぇもんなぁ……中身がいかにクソでも、これだけ顔面偏差値が高ければ、普通に仕事はできるわけだ……いやぁ、しかし、モデルって仕事が、いかに『外見だけのお仕事か』ってことがよくわかる。普通の一般的な良識ある職場なら、こんな中身クソカスな女は、全力で嫌われて、つまはじきにされて、そくざに人生終了だと思うが、しかし、芸能人という仕事は顔面偏差値さえ高ければ、中身はクソでも構わない。いや、むしろ、中身がクソでないと、やっていけない、鬼の巣窟なのやも……いやだねぇ、おぞましいねぇ)


「言っておくけれど、サインは書かないわ。一人に書くと、皆に書かないといけないから」


「あ……そう」

「残念だなぁ」


 『枚挙にいとまがない突っ込み所』を、

 ほとんど同時に、オールスルーする覚悟を決める両者。


 『色々と面倒くさいので、もう関わるのをやめよう』

 と両者が同時に、固く決意したその直後、


 ガララっと、扉が開いた。


 ドアの向こうにたたずんでいたのは、

 稀代のパラノイア――聖堂雅。


 聖堂は、

 夕陽に染められた多目的室で相対している才藤と華日を見た瞬間、

 いつもの鬼の形相から、血走った般若へと、その顔面凶器レベルを急激にランクアップさせて、

 ツカツカと、才籐の元まで歩みより、彼の胸倉を大分強めに掴みながら、



「ブチ殺すぞ、色欲魔ぁ!」

「なんで?! ていうか、何がぁ?!」



 鋭い顔面で叫ぶ聖堂と、そんな彼女に全力で辟易する才籐。

 そんな二人を三秒間だけ観察した華日が、


(あの女、とんでもない美人……足、クッソ長いし、胸も大きい……いえ、でも、おっぱいはあたしの方が上。足の質も、単純な長さでは負けているけれど、磨き方ではあたしの方が上。ぅ、うん……総合点では、あたしの方が上だわ。ふぅ……危ない、危ない。こんなカスみたいな高校で、あたし以上の美少女なんて、絶対に存在しちゃいけない。まったく、ヒヤヒヤさせないでほしいわ)


 などと心の中でつぶやいている彼女を横目に、

 センは、


(……酒神に才藤と、ただでさえ、カオスな空間なのに、また一人、すげぇルナティックマスターがくわわって、カオスの濃度が爆増しやがった……やべぇな……俺一人だけが、普通に浮いている……良識と常識だけで構成されている一般人の俺に、この空間はキツすぎる……)


 などと、心の中でつぶやいていると、

 それまで黙っていた天童が、

 もう我慢できないという感じで、




(――いや、ここにいる連中は全員、どっこいどっこいだ。もっといえば、この状況においても、お前は、やはり、頭一つ抜けている)




 と、テレパシーを使ってきた。


 センは、普通に不快さをあらわにして、


(イカれたことをぬかすなよ、天童。確かに、俺の深部にも『一般人から遠ざかっている部分』はある。それは認めるにやぶさかではないが、しかし、さすがに、こいつらと比べた場合、俺の方がまともだ。少なくとも、俺が抜きんでるなどということはない。こいつらを置き去りにできるサイコなど、存在するわけがない)


(本物のサイコは、自分を棚にあげる。お前はいい例だ)


 などと心の中で話している間、


「貴様は、どこまで私を不快にさせれば気がすむんだ、あぁ、ごらぁ。探せばいるものだなぁ! 常軌を逸したドスケベ野郎というものも! 探してなどいないのだがなぁ!」


「と、とりあえず、まず、その行動に至った経緯を教えてくれ。毎度のことだが、お前の言動は、一から十まで、あまねくすべてが、本当に、意味わからん過ぎて、神経がモゲる」


 メンヘラ力全開で、ぐいぐいと締め上げる聖堂と、

 普通に意識を失いそうになっている才籐。


 そんな、かなり特殊なやりとりをしている二人を横目にしながら、

 酒神華日が、


(なに、あの女、ヤバくない? 重度のサイコパス? それともイカれたパラノイア?)


 と、心の中でそんなことを呟く。


 聖堂に対して、『ヤバいやつ』を見る目を向けている彼女に、

 センは、心の中で、


(そんな顔をする資格はお前にはない。お前も、相当なサイコ野郎だ)

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