16話 ボロを着てても心は錦。


 16話 ボロを着てても心は錦。


 聖堂を変な目で見ている華日に、

 センが、


(そんな顔をする資格はお前にはない。お前も、相当なサイコ野郎だ)


 などと思っていると、

 そこで、



「「「「……!!」」」」



 キィインっと、不快な音が襲った。


 全員が、反射的に耳をふさいで眼を閉じた直後。




 ―――――――――――――――――――




 肌に触れている空気の質が変わった。

 ――最初に目を開けたのはセン。




「……おっとぉ……」




 視界に飛び込んできた風景は真夜中の魔天楼。

 お行儀よく並ぶ凸凹で巨大なビルの群れが放つギラギラしたネオンと、

 真っ赤な三日月に彩られた幻想的な空間。



「……膨大なカオスが続くねぇ……しんどいなぁ、もう……」



 などと、

 センが、しんどそうにつぶやいている後ろで、


 ――才藤は、


「え……えぇぇ……ええ?」


 普通に困惑している。

 聖堂と華日も、現状の異常さに気付き始め、


「……っ……? ……?」

「ぇ、どこよ、ここ? なに? どういうこと? は?」


 絶句の表情で固まる聖堂と、

 うろたえながら眉間にガッツリとシワを寄せる華日。


「ていうか、なに……この服。あんたらも」


 華日は、露出の多いライトメイルを装着しており、

 聖堂は漆黒のローブに身を包んでいた。

 そして、才籐とセンは、汚らしいボロ布を纏っている。


 突然の出来事に、全員が困惑していると、




『セクション0! チュートリアルを開始する!!』




 背後から響く歪な声。

 反射的に振り返った四人の目に、おぞましい化け物の姿が映る。


 全長五メートルの土人形。

 右手に禍々しいフランベルジュ、左腕に巨大なボーガン。



「ぅ――」



 思わずのけぞってしまう才藤。

 女子二人は両目を見開いて化け物を凝視している。


 そんな彼女たちの横で、センは、


(……このゴーレムは雑魚だな。大した力は感じねぇ……動きもトロそうだし、これを処理するのは一瞬だろう)


 冷静に解体方法を考えていた。

 ボロを着ているが心は錦。


 冷静なのはセンだけで、

 他の3名は、最初からずっと、恐怖におののいている。


 ただ、恐怖の割合に対し、パニックの総量はそうでもなかった。

 この現状は本来、感情に身を委ね、悲鳴を上げながら脱兎の如く逃げ出してもおかしくない場面だが、三人とも息をのむだけで済んだ。



 ――なぜなら、この瞬間、『高次の理解』が、

 驚愕を追い越して、4人の『中』に浸透していったから。



 生まれて初めての感覚。

 『知識そのもの』が頭の中に流れ込んでくる。


 『大量の情報』を一瞬で脳味噌に刷り込まれる、極まった違和感。



(おっと……なんか、頭の中にインストールされたな……周りを見る限り、これ、どうやら、俺だけじゃなくて、こいつら全員っぽい……)



 瞬時かつ直接。

 『現状を解するための情報』が、『どうあがいても忘れられそうにない記憶』として流れこんでくる。

 把握に至るまでに要した時間はコンマ数秒。




『新たなる探究者たちよ。今、お前たちが得た知識、そして力は、主の意思を解するためのカギ。真理を求めよ。主は、新たなる探究者を歓迎している』




 ゴーレムのくせに、大きく息継ぎをして、


『さあ、はじめよう。探究者たちよ。私を乗り越えて、最初の一歩を踏みしめよ』

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