39話 なんだかんだ無敵の主人公。

 39話 なんだかんだ無敵の主人公。


「――うぅぬっっ!!」


 寸でのところで、ウムルは、ピヨリ状態から解放され、


 その結果、

 ウムルは、


「ぐぅぁああ!」


 切り刻まれはしたものの、

 中心の切断にはいたらず、


「くそったれがぁああ! 異次元砲ぉおおおお!!」


 暴力的な魔力の波動を、

 センに叩き込もうとした。


 その一手に対し、

 センの頭は、一瞬、


(ぅわ、エグっ、死んだ――)


 と、不可避の死に包まれたのだが、

 しかし、

 センの体は、ほぼ、反射的に、

 何も考えず、




「――虚空・異次元砲ぉおお!!」




 ナイフの切っ先を向けながら、

 そう叫んでいた。


 極端な魔力の波動が、

 轟音をたてて放出される。


 暴力的な魔力と、極端な魔力が、

 空中で拮抗しあう。

 バチバチと音をたてて、

 数秒の押し引きを経た果てに、

 両者の放ったエネルギーは、完全に相殺されるに至った。


 その様を目の当たりにしたウムルは、

 心底から茫然とした顔になり、

 その直後、


「はぁぁああああ?! なっ……私の……異次元砲を……相殺……はぁあああああ?! バカな、バカな、バカな! んなアホなぁあああ!」


 頭を抱えて、脂汗を垂れ流しながら、


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁあ! こ、こんなこと……いくら、『尋常ではないマジックアイテム』を使っているとはいえ、あんな脆弱な肉体しか持たない者に……異次元砲の撃ち合いで……引き分けるなど……そんな……そんなことぉおおおお! あっていいわけないだろぉおおお!」


「ふふん。驚いているようだな。さもありなん。ただし、これだけは、最初にハッキリと言っておくぞ。今、一番驚いているのは……この俺だ」


 と、堂々宣言をかまし、


「あんな『ヤベぇ出力の魔法』を目の当たりにした俺の頭は、普通に、『あ、死んだー』と思ったが、しかし、なぜだか、生きていました。まる。……これが、俺の現状だ! どうだ、まいったか!」


 現状、重篤なツッコミ役不足に陥っているため、

 誰も、センのクリティカルな発言に対し、

 適切な返しを行えない。


 ツミカは『何がなんだか』という顔で呆けていて、

 ウムルは頭を抱えて唸っているばかり。


 ――そんなカオスな状況の中、

 センは、


(……ものごっつ体がギシギシ鳴っているけど……これは、大丈夫なのかね……正直、このまま体が、『デス〇ートで人間の寿命を延ばした死神』みたいに、パラパラと砂になって崩れても、全然不思議じゃないってレベルで、体の不調指数がエグいことになっているんだが……)


 全身が軋んでいる。

 膨大な魔力に身を晒した結果、

 精神的にも肉体的にもボロボロになっている。


 だが、そんな内情はおくびにも出さず、


「ウムル。どうやら、俺は、なんだかんだ無敵らしい。おそらく、俺は、この世界の主人公だ。主人公補正があるキャラは死なない。これは、あらゆる世界の常識。というわけで、この先、お前がいくら頑張っても無駄。『俺の勝利は最初から確定している』という、無慈悲な現実を心に刻みこめ」

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