24話 無様な恥を積み重ねて、俺は今日にたどり着いた。


 24話 無様な恥を積み重ねて、俺は今日にたどり着いた。


「さあ、セン様……楽にして。大丈夫です。天上のシミを数えていたら終わりますから」


 そう言いながら、母性本能全開の、バブみがハンパないとろけ顔で、センの頭を優しくなでるアルキ。


「いや、あの……ちょ、マジで……」


 逃げようとするセンを、

 まるで、『ぐずる赤子』を抑え込むように、

 少しだけ強く、けれど、本質は優しく、

 ソっと包み込むアルキ。


「ああぁ……愛おしい……」


 そう言って、センの唇を奪おうとするアルキ。


「わかった! オッケーだ、五画寺アルキ! お前の気持ちは痛いほど理解した! 話し合おう! 要求は何でも受け入れる! だから、いったん、落ち着いてくれ!」


「今の私は、冷静と情熱の間で激しく整っております」


「ちょっと何言っているかわかんない――とか言っている場合じゃねぇ! だめだ! こいつ本気だ! 目と面構えが違う!」


 情欲でパンパンになった女の圧力を前に、

 センの特異的防衛本能が大音量のアラームを鳴らす。


 今、自分の貞操が本気でヤバいと理解したセンは、


(才藤! 天童! お前たちの出番だ! 俺を助けろ! とんでもないキングボンビーを押し付けてきたその大罪を、ここで清算しろ!)


 自分の中に刻まれているヒーロー二人に、

 救いを求めてみるセン。


 だが、

 天童は、感情のない声で、


(助けてやりたいのはやまやまなんだが、五画寺に込められた呪力が強すぎて、何もできないな。己の無力を正式に謝罪する。無念だ……くっ)


 続けて、才藤が、やる気のない声で、


(くっそー(棒)。全然力がでないー(棒)助けたいのにー(棒)ごめんねー、もうしわけー)


 などと、己の無力を叫ぶ。


(クソ以下のカスども! わかっているのか! このままだと、俺が俺でなくなるんだぞ!)


((こまったなー))


(貴様らぁあああ!)


 ――そんな風に、心の中で、悲鳴をあげていると、

 アルキが、センの耳を噛んだ。


 ゾワゾワっと、全身を駆け巡る情動。

 訓練された軍人みたいに、産毛が一斉に直立不動。

 脳のダムが決壊。

 色欲の快楽分泌物がドバドバとあふれる。


 生殖欲求がかきたてられて、

 ケツの穴に腕を突っ込まれたかのごとく、

 奥歯がガタガタと盛大に震えた。


 このまま、ゆるやかに無抵抗を通して、

 たおやかに艶やかに流されてしまえば、

 無限ループですさんだ心が溶かされて、

 男としての本能が満たされるのだろう、

 ……と、魂魄の部分で理解したセンは、


 ――だからこそ、




「頼む……やめてくれ」




 冗談の要素を一切排除した声。

 真摯に、愚直に、

 センは、彼女に、懇願する。


 その声が、あまりにも、真剣過ぎたから、

 アルキは、センの耳から口を離して、キュっと、唇を閉じた。


「……据え膳食わぬは男の恥ですよ」


 そんな彼女の言葉に対し、

 センは、


「無様な恥を積み重ねて、俺は今日にたどり着いた。だから、本当ならつぶれてしまうほどの恥をかいても、俺は明日を求めて歩き出すことができる」


 文言だけで見れば、それなりに、

 カッコいいと思えるような言葉ではあったが、

 しかし、全体を理解した上で聞くと、

 とんでもないヘタレの悲鳴にしか聞こえない。

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