51話 メメント・モリ。


 51話 メメント・モリ。


「はぁ……はぁ……センエース……大きくなったなぁ……」


「はぁ……はぁ……親戚のオッサンみたいなこと言うじゃねぇか……」


 センの軽口をシカトして、

 管理人は、重たい想いを乗せて口を開く。


「誰にも……お前のマネは出来ない……ソコは……お前だけが……たどり着ける場所……」


「……」


「センエース……」


 そこで、管理人は、グっと、顔を上げて、

 真摯な目で、センの目を見つめながら、

 アイテムボックスから、ナイフを取り出し、


「――見せてもらうぞ」


 そう言いながら、

 ナイフの切っ先を、


 ……自分の胸に突き刺した。



「ごふっ……」



 当たり前のように吐血する。


 心臓を切り裂く凶悪な激痛。

 口から血があふれて、管理人の視界がグニャリとゆがむ。


「……おいおい……どういうこと……?」


 ――いきなり『自分の心臓』をナイフで突き刺した管理人を目の当たりにして、

 センは、いぶかしげな顔で警戒する。


(自殺ではないだろうな……特殊なアリア・ギアスの発動……と考えるのが妥当くさい)


 警戒心が膨らんでいく。

 『苦難の人生経験』が過剰に豊富なセンさんは、この手の異常に対して慣れているため、微弱な困惑に包まれることはなく、ただただ、まっすぐに、管理人の『覚醒具合』を確認する。




「ぐぽぉ……がぱぁ……ごほぉ……」




 勢いよく赤い血を吐き出していた管理人が、

 途中で、白目をむいて、真っ黒な血を吐き出した。


(おお、キモいねぇ……)


 心の中で、ポップな悪口を言いながら、

 センは、警戒心をさらに一段階引き上げていく。


(そのキモさで、いったい、何をしようって?)


 注意深く観察しているセンの視線の先で、

 管理人は、


「ごぽぉおお! あぁああ、げはぁ!」


 大量の黒い血を吐き出し続ける。


 その黒い血は、どんどん集まっていき、

 圧縮されていく。


 そして、最終的には、

 『漆黒に輝く玉』となって、


 管理人の手の中におさまった。


「……はぁ……はぁ……うぇ……」


 管理人は、白目をむいたまま、

 その玉を握りしめると、

 まったく精気のない、しゃがれ声で、


「――黒ク……輝ケ……トラペゾヘドロン……」


 そうつぶやいた。


 その瞬間、

 その黒い玉から、闇色の混沌が這い出てきて、

 管理人を包み込んでいく。


 その光景を見ていたセンは、


(トラペ? あれが? ……俺が知っているやつは、多面体だが……)


 疑問符を抱いている間、

 管理人の様子は、どんどん危うくなっていく。



「ォオオオオオオオオガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 数秒後、黒い混沌に包まれた管理人は、


「グィイイッッ!」


 ふぃに、


「ガァァア!!」


 目をカっと開き、



「ぶはぁぁっっっ!!! はぁ、はぁ……う、あ……あ、い、う……んー、ああ……」



 何度か息継ぎすると、


「うん、オッケー」


 そうつぶやき、

 首をコキコキとならして、

 肩をまわし、


「こっちも、普通に同期できたな……よかった、よかった、安心、安心」


「……えっと……あの……なんか……めちゃくちゃ……強くなってません?」

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