最終話 めでたし、めでたし。


 最終話 めでたし、めでたし。


「……なんでだ? 一発あてたら……生かして返してくれるんじゃ……なかったの?」


「あれは嘘だ」


「……お前は、事実しか口にしない、正直村の住人じゃなかったの?」


「そんな村は存在しない」


「……あ、そう……」


 力なく、そう言うと、

 センは、視線を、無為にさまよわせながら、


「そっか……死んだのか……俺……まいったな……こんなにあっさり終わるとは思っていなかった……これで終わりか……マジか……へぇ……いや、マジか……」


「辞世の句を聞いてやる。詠うがいい」


 そんなヨグの言葉に対し、

 センは、


「……」


 数秒の沈黙という前を置いてから、

 ギロっと、ヨグを睨みつけ、


「……まだだ……」


「なにがだ?」


「ちょっと考えてみたが……まだ、俺は終われない」


「なぜだ?」


「俺がいないと世界が終わるから」


「傲慢な考え方だな。自己中心的で自己陶酔的な、ある意味で破滅型の性格形態」


「……俺の性格診断は好きにしてくれていいが、とにもかくにも、まだ終われない……まだ、俺は何も救(すく)えていない」


「だが、何もできない。貴様は死ぬ。というか、貴様はもう死んでいる」


 そんなヨグの断言に対し、

 センは、アホ丸出しの顔で、




「まさか、殺したぐらいでヒーローが死ぬとでも?」 




「……」


 あまりにもイカれたセンの発言に、

 絶句を隠せないヨグ。


 そんなヨグに、

 センは追撃の言葉を放つ。


「勘違いもはなはだしい。ヒーローをナメんな」


「……この状況ですら……その目に宿る光に陰りがない……常軌を大幅に逸している……貴様ほどのヒーローは他にない。今、絶句しているのは私だけではない。自分の中心に視線を向けてみろ。天童も才藤も引いているぞ」


 視線を向けるまでもなく、

 センは、自分の中で、二人が引いているのを感じていた。


 天童と、才藤。

 両者とも、同じことを、心の中で思う。


((俺たちは、自分のキングボ〇ビーを誰かに押し付けたわけじゃない。えげつないヘンタイに、むりやり、かっさらわれただけだ))


 ――そこで、ヨグは、心底からの言葉を繋ぐ。


「貴様は完全ではない。完璧でもない。天才でもないし、最強でもない。しかし、貴様は、間違いなく、いつだって、誰よりも壊れている……それだけは間違いない」


「よくわかってんじゃねぇか。すでに壊れている俺を、これ以上壊すことはできない。つまり、俺は壊れない。絶対に死なない! ヒーローは、世界を救いきるまで、終われねと、相場が決まってんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 奥歯をかみしめて、

 とにかく、全力で、覚悟と意地と誇りを叫ぶセンエース。


 そのイカれきった咆哮を受けて、

 ヨグは、


「貴様以外が口にすれば、『ただの醜い言葉遊び』だが……」


 真摯なまなざしで、


「貴様の言葉だと思うと、『この上なく醜い言葉遊び』に思えるから不思議だ」


 最後にそう言うと、

 無慈悲に、パチンと指を鳴らした。


 ――その瞬間、

 センの頭が、


 バァァァァァァァンッッッッ!!!


 と、豪快に吹き飛んだ。

 跡形もなく……バラバラに。


 細かい肉片となって、

 世界に飛び散る。


 つまり、

 ――センエースは死んだ。

 とても、あっけない最後だった。


 おもえば、長い長い旅だった。

 何百億に何百をかけるという、壮大な旅だった。

 しかし、終わる時は、一瞬だった。

 本当に、あっけないものだった。


 ヨグの本体は、あまりにも強すぎた。

 次元が違い過ぎた。

 センですら勝てない強敵の中の強敵。


 そんな敵に負けて終わるのだから、

 センエースも、きっと満足だろう。


 終わりというものは、たとえ、最良や最善でなくとも、

 整ってさえいれば、すべてよし!


 というわけで、

 めでたし、めでたし!

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