86話 挙式にゃ!


 86話 挙式にゃ!


「あんたのもんはあたしのもの! あたしのものを、あたしがどうしようと、あたしの勝手じゃい!」


「……なんてまっすぐなジャイアニズムなの。いっそ、すがすがしいくらいの邪悪さ。……こんな危ない子を引き取るべきじゃなかったわね」


「いまさら後悔しても遅いわい。紅院家の財産は、全て、あたしが喰らい尽くしたる! そんで、この男に、ぜんぶ残らず貢いだらぁ!」


 などと、ラリったことをほざきつつ、

 センの肩をポンと叩く。


「ほしいもんがあったら、なんでも言うてや。好きなだけ買うたるから。あたしの視点やと、この世のもんは、全部、あんたのもんやから、わざわざ、金出して買うんも『ちゃうなぁ』とは思うんやけれども」


 そんな狂い散らかしているトコに対し、

 センは、まっすぐな顔で、


「とりあえず、今は、『まともな精神状態に戻った薬宮さん』が欲しいですね」


 と、軽いジャブで様子をうかがってから、


「いったん、落ち着け、薬宮。今日のお前、だいぶ異常だ。いや、『だいぶおかしい』ってだけなら、いつもと同じ。今日のお前はぶっ飛びでおかしい」


「おかしくもなるわい。マナミから聞いたで、あんたの道程。あんたは異常や。頭がおかしい」


「俺が狂っているのは事実だが、しかし、あなたには負けるよ、薬宮さん」


「ははっ、なに言うてんねん」


「いや、あの、『こら傑作やで』みたいな顔で快活に笑っているが、俺より、お前の方が、絶対に異常だからな」


「はいはい、おもろい、おもろい」


「一ミリたりともギャグは言ってねぇんだよ。こちとら、バチバチのシリアスで、人生、やらせてもらってんだ。絶対に、お前の方がラリっているからな。ここだけは譲れない」


 お互いに『異常者』のレッテルを張り合うという、

 あまりにも非生産的で醜い争いを続ける両者。


 そんな二人に、

 茶柱が、すまし顔で、


「まあまあ、二人とも、落ち着くにゃ。大丈夫、どっちもちゃんと変人だから。常識人のツミカさんの前では、どっちも、ヤベェ変態だから」


「うっせぇ、人外の殿堂入り。てめぇは、すでに、違うステージにいるんだよ。人と人の会話に入り込んでくるんじゃねぇ」


「エゲつないモノの言いようにゃ! 深く傷ついたにゃ! つまりは、キズモノにされたにゃ! 責任問題にゃ! 挙式にゃ!」


 などと、無敵の論法を叫びながら、

 婚姻届けを、センに押し付けてくる。


「……うぜぇなぁ……婚姻届けネタの小ボケはもう飽きてんだよ。俺は、茶柱ATMなんていうイカれたキラキラネームの妻帯者になる気は微塵もな――」


 しょせんは『かつての小ボケ』の焼き直しだろうとナメていたら、


「それは、ただのコピーにゃ。記念に、何枚か焼いておいたのにゃ」


「コピー? ほう。まあ、この『アホ丸出しの小ボケ用小道具』を、どうしようと、お前の勝手だが……で、それがどうした? これが原本だろうとコピーだろうと、俺にはなんの関係も――」


「大事なのは、こっちにゃ」


 そこで、茶柱は、

 もう一枚、紙を取り出して、

 センに渡してくる。


 そこに書かれている文字を見て、センは絶句した。


「……婚姻届受理証明書……っ……え?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る