20話 こんにちは、ヒーロー。

 20話 こんにちは、ヒーロー。


(見えない剣……属性は幻影と切断、狙いは首、ルーンは爆発……『命』を『間違いなく殺そう』としている……逃亡も延命も許さない、絶対的な殺意)


 その理解に届くと同時、

 センの感覚が、

 見えない剣の軌道を捉えた。


 見えたとか、見えないではなく、

 『その辺を飛んでいる気がする』という感覚だけで、

 センは、

 『久剣一那』の頭部を切断しようとしている『見えない剣』を、


「図虚空、こい!!」


 自分の手の中に戻したナイフで、弾き返そうとして、

 しかし、


(――かわされたっ?! 『テキトーな投げっぱなし』ではなく『半自律型』かっ!)


 コンマ数秒の中で、

 思考が爆走する。

 インパルスが弾けて、

 思考が追い付かなくなる。


 気づけば、

 センは、

 ナイフを持っていない方の手で、

 ガシッッ!!

 と、『飛翔する見えない剣』を掴んでいた。


 刃の部分を掴んだので、当然のように手が切れた。

 すべてが反射の結果だったため、

 手に魔力を注ぎ込むタイミングにラグが生じ、

 ほとんど『完全な素手』の状態でつかんでしまったため切断は免れなかった。


 ドバっと血があふれた。

 まだ、脳の関門を通していないので、

 止血にまで頭が回らない。

 血小板が慌てふためく。

 カスケードが二度見している。


 その直後、小規模な爆発が起こり、


「――だぁああっ!」


 センの左手は、当たり前のように吹っ飛んだ。


 上腕の半分くらいまでが吹っ飛び、

 骨も肉もむき出しになる。


 どうにか魔力で止血しつつ、


(やべぇな……図虚空じゃ、『腕を再生させられるほどの回復魔法』は使えねぇ……)


 自己治癒能力を高める感じの『低レベル時のホ〇ミ』くらいの魔法なら使えなくもないが、『腕を再生させるほどの高度な回復魔法』は使えない。


(茶柱と合流……即行で治してもらって、この現象を引き起こした『元凶』を殺さねぇと……)


 と、ここからのプランを頭の中で練り上げていると、

 そこで、


「ば、ばかが!!」


 久剣一那が、

 腕をなくしたセンに、


「わ、私の命より、あんたの腕の方が大事だろ!! バカか!!」


 ほとんど反射的に、そう叫んだカズナ。

 脳を通していない発言。

 この『あまりにも唐突な状況』に、

 ガタガタと、震えながらも、

 『センが自分をかばった』ということだけは理解できたようで、

 かつ『それは、最善手ではなかった』という理解と直結したようで、

 先ほどのようなセリフが飛び出してしまった。


 カズナは、決して、

 『自分の命を軽視しているわけではない』が、

 しかし、

 『任務脳』ともいうべき、

 彼女の強い責任感が、

 反射的に、先の言葉を叫ばせた。


 ――と、そんな彼女に、センは、


「俺は賢くないが、バカじゃない」


 などと、お決まりのセリフを口にしつつ、

 正義(まさよし)の死体の近くに落ちているスマホを拾い、

 ズボンで血をぬぐってから、耳にあてると、




『――よう、ヒーロー』




 聞き馴染みのある同級生の声が響いた。


「めちゃくちゃ知っている声だが……『似ているだけ』という可能性もあるから、一応、聞いておく。お前、誰だ?」


『お前の親友、蓮手だ。こんにちはー』


「……俺に友達はいない」


『友達ってのは、書面上の契約とは違う。気づけば勝手になっているものさ。その定義に当てはめた場合、お前は【俺の親友】で間違いない。仲良く猥談(わいだん)までしておいて、【友達じゃない】は通らねぇ。そこまで世界は甘くない』

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