37話 ヒーローが頭悪い職業だってことぐらい、みんなわかっている。


 37話 ヒーローが頭悪い職業だってことぐらい、みんなわかっている。


「この世には、無数の、『きつい仕事』があるが、しかし、その中でも最底辺に位置するのがヒーローって職業だと思う。思うっていうか、事実だろ。こんなに割の合わない仕事は他にねぇ」


 そこで、センは、ギュっと奥歯をかみしめて、


「絶対にやりたくねぇ……やりたく……」


 頭の中で、グルグル、グルグルと、色々なことを考えた上で、


 グっと、顎を上げて、

 まっすぐに、世界を睨みつけて、




「ヒーロー見参」




 あらためて、センは、宣言する。

 センは、何も知らずに憧れを口にしているわけではない。

 自分が、今、どれだけの面倒を抱えているのか、

 全部、わかった上で、

 全部、承知の上で、


 それでも、センは、ヒーローを騙る。


 そんなセンの言動に対し、

 クルルーは、


「……愚か極まる」


 素直な感想を口にした。

 心の底から思った本音。


 そんな本音に対し、センは、


「俺もそう思うよ」


 心の底から思った本音で返していく。

 お互いに、全て、正しく理解している。


 愚かしさの結晶。

 この上なく頭が悪い。



「閃拳っっ!!」



 ウザったい感情論を振り切るように、

 センは渾身の拳を突き出した。


 必死になって磨いてきた拳は、

 センの想いを受け止める。


「っ」


 クルルーの顔面スレスレをかすめていった閃拳。

 クルルーは、


「ステータスの数値を考えれば、ありえない威力の拳」


 センの拳は、いつだってバカみたいに重い。

 徹底的に研ぎ澄まされた愚者の拳は、

 賢者の英知を置き去りにしていく。


「貴様は異常だ。何もかもが」


 そこで、クルルーは、

 センエースに対して、本気のカウンターをぶちこんでいく。


 遊びのジャブではなく、

 命を刈り取るストレート。


 そんなクルルーの拳に対し、


「……見えたっ」


 センは、呼吸を合わせていく。

 積み重ねてきた武が、クルルーを捉える。

 完全に見えたわけではないが、

 しかし、軌道だけは確かに感じ取れた。


「神速閃拳っ!!」


 カウンターにカウンターを合わせていく無茶なゴリ押し。


 その拳は、クルルーの腹部を正確にとらえた。


「うぶっ……」


 神速閃拳は、速度重視で火力が微妙。

 ゆえに、大したダメージは通っていない。


 だが、初のクリティカルヒット。

 それは、すなわち、

 センの武は、クルルーに対して無意味ではないという証明。


 まともな一撃をくらってしまったクルルーは、

 冷や汗を流しながら、


「ほとほと呆れかえるな。貴様はおかしい」


 思ったことを、素直に口にするクルルー。


「ヒーローか……」


 しみじみと、


「……ヒーローねぇ」


 そう声に出してから、


「私には理解できない概念だ……というより、理解したくない概念といった方が正確か」


 そう言い捨てると、

 クルルーは、オーラを膨らませた。


 とても静かな覇気だった。

 音を平伏させる暴力的な静寂さ。


 その奥で、クルルーは、

 深い魔力を練り上げていく。


 深く、深く、どこまでも深く。

 海をおもわせる壮大さ、荘厳さ。



「――異次元砲」



 一点集中の照射。

 美しい魔力の結晶。


 その膨大なエネルギー量は、

 今のセンに対応できる数値を超えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る