26話 酷い男。


 26話 酷い男。


「本気で、俺を好きになってくれたというのなら、それは、とても喜ばしいことだ。けど、きっと、その感情を向ける相手は、俺じゃなくてもよかったはずだ。仮に、俺と同じことをやってきたイケメンがいたら、あんたは、そっちを選ぶはずだ」


「そんなこと――」


「否定できるのか? なにを根拠に?」


「……根拠……っ」


 アルキは、論理的にものを考えるタイプ。

 だから、言葉に詰まってしまった。


 感情論に根拠などない。

 『男を愛しい』と思ったのは初めて。

 情動が暴走しているのが現状。

 それも事実。

 だから、封殺されてしまう。


 卑怯な一手だった。

 センはさらに、卑屈で卑劣な追撃を放つ。


「俺を好きだと言ってくれたやつは、これまでのループ人生の中で、何人かいた。けど、その好意は、直線で俺に向けられたものではないと俺は考える」


 『言葉で否定する』のはたやすい疑心暗鬼。

 けれど『論理で崩す』のは難しい人間理論。


「人類滅亡が目の前に控えているという、この極限状態において、選択肢が他になかっただけ。俺しかいないから、とりあえず俺を選んでおく――嫌なんだよ、俺は。そういうの。そうじゃねぇ。違うんだ。余計なもの全部をとっぱらったあとに残る俺の全部と向き合って、それでも、俺がいいと思ってもらいたいと、俺は思っているんだ」


 白馬に乗った王子様を求めるような、

 恋に恋する脳内お花畑のロマンティック無双乙女感。


 『純度100%』のキラキラな『理想の恋』を求める真正のおバカさん。

 ここまで過剰に完璧な理想を求めるバカは、

 世界広しと言えど、そうそういないだろう。


「めんどくさいのは分かっている。ワケの分からない理想論だってことは重々承知している。けど、捨てたくないんだ。この理想だけは」


「そんなことを言われても……では、こっちはどうしたらいいのですか? あなたの理想に応えるには、どうしたらいいのですか?」


 センエースの『気持ち悪さ』を目の当たりにして、

 しかし、それでも、なお食い下がる五画寺アルキ。


 普通なら、ドン引きして発狂するだろうが、

 しかし、彼女は、まだ、まっすぐにセンを見つめていた。


 彼女も、間違いなく変態であるという証。

 ある意味で、お似合いだと言えた。


 そんな彼女に対し、

 センは、ボソボソと、みっともない声量と態度で、


「……待ってほしい。必ず、世界を救うから。鬱陶しい面倒事を、全部、片っ端から片付けて、フラットな状態に整えてみせるから……それまで、待ってくれ」


 『五画寺の想い』からはシッポを巻いて逃げているのに、

 『世界の命運』にはメンチを切り散らかしているという、

 本当に、なんとも不思議な男である。


「……酷い人」


 ボソっと、そう言ったアルキに、

 センは、


「そうか? 俺は、むしろ、あんたら女どもに、それを言いたいね。きっと、世界がフラットになった時、あんたらみたいな本物の美少女は、絶対に俺を選ばない。『しょせんは吊り橋効果の幻想にすぎなかった』、『やっぱり長身のイケメンの方がいい』となるに決まっている。そうだ! 結局、女なんて、そういう生き物なんだ! この薄情者! 鬼畜! 外道!」

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