42話 27。


 42話 27。


「はい、詰み。ワシの勝ちやな。お疲れはんでーす」


 たった数手で、ロイガーを瞬殺したトウシ。


 目の前の現実が信じられないロイガーは、

 目を丸くして、口をぱくぱくさせながら、


「なっ……あっ……えっ……なんで……」


「なんでもクソもあるか。ただハメ殺しただけ。お前が、あの女どもにやっとったもんと同じ。そんだけ」


「……」


「無知な初心者を瞬殺するハメ手……この無限将棋には、だいたい、3000種類ぐらいあるけど……ロイガー、お前は、おそらく、5~6種類ぐらいしか把握しとらんやろ」


「……」


「なんで分かるかって? 四局も見たら、だいたいの棋力は分かる。中盤や終盤の腕前は知らんけど、序盤の攻め方が、基本的に一辺倒のハメ技構成。どんだけ抜いて打とうが、筋は見える。お前は大したことない。研究不足の雑魚。初心者をハメ殺すんが精々で、普通に打てる相手には歯が立たんゴミ」


 トウシの苛烈な評価に、ロイガーは、ギリっと奥歯をかみしめる。

 トウシの評価は、ほぼ完全に当たっていた。


 たった数局、それも序盤の手を見ただけで、どうして、

 そこまで、自分の棋力が分かるのか、

 と、ロイガーは、普通に疑問を抱いた。


 ――タネをあかすと、

 トウシは、ロイガーの棋力を暴いたのではなく、

 言動や打ち筋から、『おそらくそうだろう』と推測をたて、

 いかにも『読み切った』というハッタリをかましただけ。


 だが、効果は抜群。

 なぜなら、トウシの異常性が、ハッタリを補強するから。


 気力を見切ったか否かに関してはハッタリだが、

 しかし、トウシが、このゲームの本質を、

 たった数分で理解してしまったのは事実。


 そのありえない頭脳が、ロイガーの奥歯を軋ませた。


「……は……ハメ手が3000種類ほどあると……なぜ分かる? 先ほど渡したルールブックに、そんなことは書いていないはず」


 そんなロイガーの質問に、

 トウシは、なんでもないことのような顔で、


「このゲームの定石と必勝法に関する流れを全部解析したから」


 いかれたことを口にした。


「……定石と必勝法を……解析……なにをバカなことを……いったい、どれだけの数のパターンがあると思っている……」


「確かに、全部のパターンを細かく解析するとなったら、もっと時間がかかるやろうけど、俯瞰で、バッサリと大別した場合、このゲームの基本的なルートは27種類ぐらいやからな。どのパターンに当てはまるかの見極めさえできれば、あとは、どうとでもなる」


「……にじゅう……な……なんだ、その数字は……いったい、どこから出てきた……」


 『ハメ手の種類』ぐらいならば、おおよそ把握できているが、

 しかし、

 『俯瞰でみた際の大別パターン数』という領域までくると、

 もはや、ロイガーに理解できる範囲を超えている。


 トウシに見えている世界は、頂点からの風景。

 山のふもとでウロチョロしているだけのロイガーに、

 トウシが見ている風景が理解できるはずがない。


「このゲームは、選択肢が無限に見えるが、コマの動きがダイナミックすぎるから、基本的には、定石どおりに進めんと、ハメ手で詰められて終わる。『わからん殺し』に対して、どれだけ理解があるか……その総量で勝敗が決まるクソゲー」

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