38話 これ以上、あの子たちを苦しめるのであれば、私が、あなたを殺す。


 38話 これ以上、あの子たちを苦しめるのであれば、私が、あなたを殺す。


「まあ、別にいいけど」


 と、了承してから、

 K5の面々を『銀の鍵捜索』に出させ、

 メナと向き合った。


「で、話って?」


 一縷の希望を抱きながら、そう尋ねると、

 メナは、強い視線で、


「あの子たちを苦しめるのは、もうやめなさい」


 と、強い口調で言い放った。

 見た目も、語気も、すべてが力強い。

 けれど、荒さは感じない。

 丁寧で、上品な強さ。


「……」


 押し黙ったセンに、

 メナは続けて、


「あの子たちは、ずっと苦しんできた。神話生物の処理という、厄介な仕事を押し付けられて、傷ついて、けど、世界のために、健気に頑張ってきた。……これ以上、あの子たちが苦しんでいるところは見ていられない」


 メナは優しい女性だった。

 あるていど常識的で、なかなか清廉で、それなりに高潔。

 ある意味で、『普通』の女性と言ってもいい。

 一等の世界で生きている者は、

 『庶民』に対して歪んだ選民意識を持つ者も多いが、

 彼女は、そういう毒に惑わされず、まっすぐに成長した。


 彼女のまっすぐさに、センは、好感を覚えつつ、


「見ていられない……で? だから?」


 そう言葉を返すと、

 メナは、よりいっそう強い目になり、


「――これ以上、あの子たちを苦しめるのであれば、私が、あなたを殺す」


 その言葉を受けて、

 センは、


「はははははっ!」


 腹の底から笑った。

 いつものように煽っているわけではなく、

 単純に、おかしすぎて笑った。


「お前が? 俺を? 殺す? あはははははっ! たかが、数十年程度しか生きていない一般人が、俺を殺せるわけねぇだろ! ヘソで沸いた茶が沸騰しすぎて蒸発するぜ」


 と、何がなんだか分からない言葉を述べるセンに、

 メナは、


「言っておくけれど、私は『久剣家の天才姉妹』に匹敵する武の才を有している。幼少のころから、血のにじむ鍛錬を積んできた。あんたみたいなヒョロガリに負ける理由はない。私がその気になれば、数秒で、その首をへし折れる」


「久剣の天才姉妹ぃ? ……ああ、なんか、そういうヤツもいたな……カズノだったか、カズナだったか忘れたが、そういうしょっぱいヤツがいたのだけは、なんとなく憶えてるぜ」


 ここに関しては、マジで記憶があやふやになってきていた。

 カズナと過ごした時間は、それなりに長かったが、

 もうすでに、数千年も前のことなので、

 センの拙い記憶力では、詳細な想い出を維持するのが難しい。

 もちろん、本当に大事なことは忘れていないが、

 細かい部分になると、完全にボヤけてしまっている。


 一度だけ聞いた『彼女のコードネーム』が『エキドナ03』であるということだけは、なぜだかすごく覚えているが、彼女の本名に関しては、マジで『カズノ』だったか『カズナ』だったかすらあやふや。


「……お前が、あのカスと同列のゴミカスであることを教えてくれてありがとう。ちなみに言っておくと、俺は、あのカスが80億人ぐらい束になってかかってきても、秒で殺せるぞ。俺は、お前らみたいな無能とは命の格が違うんだ」

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