37話 無限の地獄。


 37話 無限の地獄。


(命の壁は高く厚い。そう簡単にはこえられない)


「10000年積んだんだぞ? 50万回もループしたんだぞ? その俺に対して、二度と『簡単』なんて言葉を使うんじゃねぇ。その侮蔑は、俺という概念から、もっともほど遠い」


 ちなみに、この数千年の間に、センの心は何度か折れている。

 『いい加減にしてくれぇえええええええ!』と壊れたように叫んだ回数は数えきれない。

 しかし、そのたびに『それでも……』と、必死に歯を食いしばって、

 今日という日までたどり着いた修羅の閃光。


 ありえないレベルで、魂魄が成長しており、

 メンタル面も、だいぶ強化されている。


 ただでさえ、人間の限界を置き去りにしていた破格のメンタルが、

 この地獄の数千年で、さらに数段階上に引き上げられた。


 ――そこまでの領域に到って、しかし、まだ、



「……もぉおお! 勝てないぃ! うざいぃいいい! こんなに強くなったのに、なんでだよぉおおお! いい加減にしてくれぇえ! もうやだぁあああああ!」



 破格に鍛え上げられたメンタルが絶叫するほど、

 『オメガバスティオン化された神格』は異次元の強さを誇っていた。


 今のセンなら、『はじめて出会った時の、ロイガー・オメガバスティン』ならば余裕で殺せるのだが、『センと共に成長してしまったロイガー・オメガバスティン』は、センを普通に超えている。


「まじで、無限地獄じゃねぇか! 永遠に追いつけねぇよ! つぅか、俺と、こいつの差、ちょっと離されてねぇ?! ふざけんな、マジでぇええええええ!」


 救いなのは『いつでも、逃げることが可能』という点。

 それがなければ、普通に詰んでいた。


 スイッチをオフって、通常モードに切り替えると、

 ロイガー・オメガバスティンは消え去った。



 静かになった夜に独り、

 センは、空を見上げて、




「もう、辛いってぇ……」




 終わらない地獄の底でもがきつづける。

 なぜ、こんなに苦しみ続けなければいけないのか、

 と、毎日、毎日、自問自答。


 頑張って、頑張って、頑張って、

 けど、まったく報われない閉塞的な日々。


 ぶっ壊れて、歪んで、腐って、

 けれど、『それでも』と、必死になって叫び続けて、

 磨きぬいた魂魄の器。

 確かな輝きを放つこの器でも、

 命の壁の前では、ほとんど無力と言っても過言ではない。


 辛い、辛い、

 と嘆きながら、

 センは、重たい今日を積み重ねる。



 ★



 ――ここ数千年、

 ほとんど変わらない毎日を過ごしているセン。

 だが、『この日』は、少しだけ変化があった。


 最終日、オメガタワーから帰ってきた時のことだった。

 車から降りて、

 『さて、それじゃあ、銀の鍵を探そうか』

 と気合を入れなおしたところで、

 リムジンの運転手を務めていた女性『蛇久利(じゃくり) 芽奈(めな)』から、

 『二人きりで話がある』と声をかけられた。


 久剣家の分家で、カーストでは『一等』の地位にある『蛇久利家』の娘。

 年齢は20台中盤で、『高身長』と『芯の強い瞳』が特徴的。


 ブレイクスルーのきっかけを求めていたセンは、

 この、『これまでとは違う流れ』に対し、

 一抹の望みを抱きつつ、


「まあ、別にいいけど」


 と、了承してから、

 K5の面々を『銀の鍵捜索』に出させ、

 メナと向き合った。

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