63話 国家レベルの壮大な実験。


 63話 国家レベルの壮大な実験。


「それでは、みなさん、目を閉じて、ゆっくりと、呼吸をしましょう。リラックスしましょう。ゆっくりと、息をすって、吐いてぇ……」


 天才コンダクターの指示に従い、

 精神を整えていく天才集団。


「良い感じです。そのまま、落ち着いて、リラックス、リラックス……」


 ――彼・彼女らの大半は、

 『国家レベルの壮大な実験を行う』と聞かされて、

 ここに集まった。


 この召集に反することは、国家反逆罪にあたると機関銃で脅されてしまえば、

 なかなか、抵抗することは難しい。


 中には、『怪しいから』と抵抗した者もいたが、

 そういった、無駄な抵抗をした者は、

 『まあまあ手荒な形』で、ここまで連れてこられている。


 仕事を理由に拒否しようとした者には『手厚い保証』をあたえた。

 この中には、犯罪者も、何人か混じっており、

 犯罪者の場合は、目隠しに手錠に猿ぐつわと、

 完璧な拘束状態で、この場にいる。


 そんな経緯があったので、

 みな、普通に怖がっており、

 文句をいう者は少ない。

 賢者は、触らぬ神に祟りなしという概念を重々理解している。


 もちろん、この「箱詰め状態で瞑想させられる」という状況に対して、

 文句をいう者が、ゼロだったというわけではない。

 ただ、その少数派が、問答無用で別の場所に連れていかれたのと、

 周囲を囲っているグラサンのボディーガードが、

 普通に銃を携帯しているので、

 賢明な者は黙って言うことを聞いている。


 ここで、改めて言っておくが、彼らのほとんどは、

 『壮大な実験の内容』を知らない。

 300人委員会ともつながっている一部の者は、

 理由を聞かされているのだが、

 その数は100人にも満たない。


 そして、理由を聞かされている者も、

 その内容が、あまりに荒唐無稽すぎるため、

 いまいち、処理しきれていない。


 というわけで、大半の者は――というか、ほぼ全員、

 『これから、何をされるのだろう』とおびえている。


 そんな彼・彼女らの恐怖心をダイレクトに理解できる状態のトウシは、


(……感情の部分は不必要。強制的に切断……すると、最悪、バグるよなぁ……若干鬱陶しいが……まあ、ええやろう……このノイズの中でも、ワシなら、問題なく処理できる……)


 心の中でぶつぶつ言いながら、

 トウシは、机を拡張させていく。

 まずは、脳のスペースを確保するところから。


 器用に、10万人の脳を繋ぎ合わせて、

 一つの巨大な容量を確保すると、


(さて……ほな、はじめよか)


 ゴキゴキと首をまわし、

 手首と肩のストレッチをしてから、


(まずは、コスモゾーンに存在する全領域の網羅から――)


 トウシは深呼吸を一つ挟んでから、

 目をカっと開いて、

 脳を爆速で回転させる。


(ええなぁ、これ……これだけスペースを多くとれると、何もかもがスムーズに運ぶ。快適、快適ぃ)


 10万人分の脳を使うことにより、

 トウシの作業速度は加速する。


 読み取ること、

 理解すること、

 判断すること、

 かみ砕くこと、

 処理すること、

 会得すること、


 全てを並列に行っていく。

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