46話 泊まるんじゃねぇぞ……

 46話 泊まるんじゃねぇぞ……


「いくぞ、ウムル=ラト。殺してやる」


 そう宣言し、センは飛び出した。


 軽やかに、火花が舞い散る。


 ――『ウムルはハスターよりも弱い』

 それは事実だが、しかし、

 圧倒的に弱いというわけではない。


 当たり前の話だが、

 『鼻息交じりに楽勝』とはいかなかった。


 というか、普通にだいぶ接戦だった。


「くっそ強ぇなぁ、くそったれぇ!」


「それはこちらのセリフだ! どういうことだ、貴様! 強すぎるぞ! 本当に人間か?!」


 センエースと、ウムル=ラト。

 両者は、互いに、命を削り合う。


 感覚を研ぎ澄ます。

 六感がビンビンに稼働する。



 その死闘は、まるで、極彩色のグラデーション。

 息を呑むほど美しく、

 息がつまるほど泥臭く、


 両者は、両者の命を奪い合う。


 結果、






「――龍閃崩拳っっ!!!」






 今の自分に可能な『最強』でもって、

 センは、ウムルの腹部にドでかい風穴をあけてみせた。


 もちろん、肉体に損傷を負わせただけではない。

 ウムルの中心に、会心の一撃!



「この上なく……重たい……一撃だった……」



 死に際に、

 ウムルは、自分の想いを吐露してから、

 安らかな顔で、この世を去った。



 静かな夜に一人、

 センは、


「……はぁ」


 深く息をつき、天をあおぐ。


 何度か深呼吸をしてから、

 自分の両手を見つめて、


「成長を感じるねぇ……」


 失わなかった腕と意識。

 その現実が、センに『成長の実感』という愉悦をあたえた。

 一度味わってしまうと、なかなか忘れられない、甘美な味。


「……俺は強くなっている……」


 つぶやいて、

 脳に刻み込む。

 『前に進んでいる』と強く理解させる。


「だが、まだだ……まだいける……」


 そう言いながら、センはゆっくりと歩きだし、



「……止まるんじゃねぇぞ」



 テンプレを口にしたところで、


「……ぁ……」


 限界がきて、意識が途切れた。






 ★



 翌日の朝、

 センが、


「はっ……夢か……」


 いつも通りの言葉を口にしつつ、

 目を覚ますと、


「どんな夢を見ていたかは知りませんが、あなたが世界の救世主であるという点に関しては、夢ではなく絶対的事実ですよ」


 隣に、カズナが立っていた。

 場所は、ホテルの一室。


 300人委員会の面々が瞬殺されたホテルのロイヤルスイートだった。


「気絶しちゃったかぁ……耐えたと思ったけどなぁ」


 などと、反省しながら、

 センはベッドから起き上がる。


 両腕を確認しつつ、


(……まあ、腕は飛ばされなかったから、間違いなく成長はしているが……できたら、あのまま、続けて、探索したかったなぁ……そこまでいって、はじめて、『大きく成長した』と胸を張って言えた。今のままだと、『普通に成長した』って程度だな)


 自分に対して、とことん厳しくしていくスタイル。

 『明確な目標』がある時のセンは、暴走機関車。


 『限界を超えた努力』で『永遠に満足し得ない理想』を追い求める。


「今、何日の何時?」


 問いかけると、

 カズナは、一流の付き人らしく、


「19日の7時27分です、陛下」


 恭しく、そう答えた。


「普通に翌日の朝か……よかった。実は2日ほど気絶していました、とかだったらシャレになっていなかった」


 そうつぶやいてから、


「カズナ、一つ、頼みがある」



「なんなりと」


「黒木と交渉がしたい。段取りをつけてくれ。できるだけはやく。なんだったら、1時間後とかがいい」


「おおせのままに」

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