45話 救われてなきゃダメなんだ。

 45話 救われてなきゃダメなんだ。


 ――その日の夜、

 センは、ウムルを処理するため、時空ヶ丘学園に向かった。


 念のため、仮面で変装した上で、

 前回と同じ時間に、時空ヶ丘学園へと到着。


「静かな夜だ……実にすばらしい」


 空を見上げ、

 ボソっと感想をつぶやくセン。


 前回は、やかましいデートだったが、

 今回は、気楽な一人散歩。


「誰にも邪魔されず、自由で、なんというか、救われるような夜だ」


 などと、なんの中身もないテンプレを、

 呑気につぶやきながら、数分ほど、校内を歩いていると、



 ブブ……



 と、何かが歪むような音が響いて、

 センの視線の先にある空間が軋んだ。


 その軋みは、

 徐々に具現化し、

 空間に切れ目として正式に顕現すると、

 その奥から、


「キシャァ……」


「一閃」


「ぴぎゃっっっ?!」


 登場と同時、

 一瞬で首チョンパされるムーンビースト。


「グ……ギャッ……っっ……」


 うめき声もそこそこに、

 あっさりと死にたえたムーンビーストの体は、

 雪の結晶みたいに、パラパラと世界に溶けていく。



「……さて……それじゃあ、がんばろうか……」



 とつぶやきながら、

 入念にストレッチをするセン。


 数秒後、



 ブーーン……


 と、奇妙な音が響いた。


 そして、地面にバーっと広がるジオメトリ。


「ウムルじゃなくて、アウターゴッドが召喚されました……みたいな、しんどい『間違い探し』の『間違いの方』は勘弁してくれよ」


 バチバチっと、電気が走った。

 空気がよどむ。

 その後、ジオメトリの向こうから、


「……ぷはぁ」


 『金のヴェールを纏ったような男』の異形が現れた。


 『彼』は、その奇怪な目で、ジっと、センを見つめ、


「ごきげんよう、私はウムル=ラト。偉大なる神に仕える者。得意技は時空操作。よろしく、どうぞ」


「ごきげんよう、俺はセンエース。最上位S級GOOと同格の強さを持つという点をのぞけば、きわめて凡庸な平均的一般高校生。得意なのは戦闘技能全般。よろしく、どうぞ」


「……」


「どうした? まさか、俺に『驚いてもらえる』とでも思っていたのか?」


「……まあ、普通は、驚かされるものなのでね。というか、普通、私の姿を見た者は発狂するんだが……君は平気のようだね……」


「いまさら、お前ごときに発狂するかよ」


 そう言いながら、センは、手の中で、図虚空をクルクルとまわす。


 その様を見たウムルは、目をほそめて、


「尋常ではない『アリア・ギアス不退転の呪縛』を帯びたナイフ……ずいぶんと奇怪な武器を持っているな」


「ああ、こいつの奇怪さはハンパねぇぞ。こんだけゴツい見た目なのに、武器としてのスペック自体は、そこらの100均で売っている包丁とトントンという、散々な有様なんだ。どうだ、引くだろう」


 などと言いながら、センは、武をかまえる。


(ウムルの反応……おそらく『今が2周目』という自覚はない……すっとぼけているだけという可能性もあるが、その場合、問いただしても意味ねぇ)


 そう判断したため、


「いくぞ、ウムル=ラト。殺してやる」


 そう宣言し、センは飛び出した。

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