79話 もっとよこせ、田中トウシ。


 79話 もっとよこせ、田中トウシ。


(っっ! 『神一色』だと?! ドハズレだ! どうなっている、田中トウシ!)


(せやから、確率を上げるだけやと言うたやろうが! すべては、おどれの運の問題じゃい! このクソ不運小僧が!)


 神一色は、火力こそ高いが、タメ時間が長く、攻撃速度自体も遅いため、ほとんどロマン砲みたいなもの。

 おまけに長時間の照射型で、かつ『照射中は動けなくなる』ため、当たれば問題ないが、避けられると、どでかいスキをさらすことになる。

 出現率は低い方なのに、スペックが微妙なので、ソンキー的には一番のハズレ。


(……相手の動きを制限できる龍暗刻とのダブルだから、まだ、どうにか運用できなくもないが……)


 ヘブンズキャノンは、基本的に『出現する可能性』が低い超必殺技。

 ダブルで出現することはほとんどないため、

 基本的には、一本で運用していくのだが、

 今回のように、劇的な幸運でダブル運用ができる場合、

 強烈なシナジーのコンボをかませる。


 間違いなく強い――のだが、

 ヨグは、


「火力の底上げは認めよう。だが、私に通るレベルではないな」


 ヘブンズキャノンの猛攻を、

 さらりとかわしながら、

 ソンキーとの距離をつめて、流麗なカウンター。

 グンと、美しく、のびやかに、

 ソンキーの腹部を捉えて吹っ飛ばす。


「……ぐぅっ……っ!」


 しっかりと吐血するソンキー。

 ダメージが蓄積されていく。

 適度に回復魔法を使っているが、

 最大HPと精神力の方にも削りを入れられているので、

 全体的に消耗してきている。


「……田中トウシ……もっとだ……もっとよこせ……まだ足りない……っ」


 切羽詰まった様子で、さらなる『おかわり』を要求するソンキー。

 中にいるトウシは、


(いや、ちょ、まてぇ……もう、さすがに……)


 できることは既に限界を超えて賭してきた。

 田中トウシの可能性も無限ではない。


「泣き言はいい……限界を超えろ……現実問題、今のままじゃ足りないんだ……」


(わかっとる……わかっとるけど……っ)


「――『けど』はいらねぇ! もっとだ!」


(ぐぅ……ぅうう……っ……)


 無限のおかわりを要求されたトウシは、

 鼻血だけではなく、血涙もたれ流す勢いで、

 限界以上に頭をまわしていく。


(……ソンキー……も、もうちょっとだけ……時間を稼げ……ひ、一つだけ……試してみる……)


「分かった。……お前だけに全てを背負わせる気はない……俺も全てを賭けよう」


 ソンキーが全身全霊で時間を稼いでいる間、

 トウシは、


(ヘブンズキャノンの解析は終了……純正の出現率に関しては5パーセントほど引き上げるのが限界……これ以上の改竄を施した場合、おそらく、ソンキーの中心がバグる……それは許容できん。この美しい闘神を穢すことは許されへん。他の手段をとるしかない……)


 ヘブンズキャノンという『プラチナスペシャルそのもの』の底上げを図れないか、トウシは画策した。

 あらゆる角度から『答え』を求めようとする学者肌の異質な特質。


 その資質が、わずかなヒントから、

 金塊のような答えを手繰り寄せた。


(ヘブンズキャノンは不完全なプラチナ……必要なパーツが足りてない……)

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