2話 俺の名前を知っているか?


 2話 俺の名前を知っているか?


 ――3000年、18万回以上のループを繰り返したところで、

 センは、

 5月17日、初日の朝に、


「……」


 うつろな目で、



「ミレー、珍しいなぁ。あんたが遅刻してへんとか、どんな奇跡?」

「トコ。私は生まれてこの方、遅刻なんてしたことないわ」



 姦しく会話をしているK5の面々の目の前まで歩き、



「俺の名前を知っているか?」



 などと、前置きも何もなしに、そう尋ねた。


 問われたトコは、

 当たり前のように、


「……いや、知らんけど……」


 普通に引きながら、

 訝し気な目を向けてくる彼女に、

 センは、


「だよな……」


 そう言いながら、

 歪んだ笑顔で、ポロポロと涙をこぼす。


 その様が、あまりに異様だったため、

 トコは、慌てて、


「は? なんで、泣いとんの? ちょ、めっちゃ、キモいんやけど」



 席から立ち上がり、かるく距離をとる彼女に、

 センは、


「いや……さすがに、ちょっと……辛くてな……」


 涙が止まらない。

 みっともなくて、恥ずかしくて、本当に嫌なのだが、

 しかし、どうしても、止まってくれなかった。


 あまりのガチ泣きに、トコたちも、強く戸惑う。


「え、なに、マジで? なんなん?」


 さすがに、異様すぎて、心配になってきたトコ。


 センは、奥歯をかみしめて、


「……悪い……」


 そう謝ってから、教室の外に出た。


 教室を出て、人目がなくなったところで、

 屋上に瞬間移動する。


 そのまま、その場にうずくまって、


「はぁ……はぁ……あぁ……うっ……はぁあ……うっ……」


 さらに泣いた。

 涙が止まらない。

 どうやら、心のダムが壊れたみたい。

 どうしても止められない涙で、顔がぐしゃぐしゃになる。



 センは、自分の腹を殴ったり、口の中を噛んだり、

 必死になって、涙を止めようとするが、

 あふれるばかりで、まったく止まってくれない。



「晒すなよ、無様ぁ……いい加減にしろ……泣くな、みっともない、ダサい、キモい、鬱陶しい……」



 自分を叱咤する。

 いい加減にしろと叱りつける。

 けど、止まらない。


「言っただろ……ヒーロー見参って……誓った覚悟をゴミにするんじゃねぇ……」


 自分自身の誓いと向き合う。

 折れそうになる自分を魂で殴りつける。


「ヒーロー見参、ヒーロー見参、ヒーロー見参……」


 何度でも口にする。

 自分自身に刻み込もうとする。


 しかし、涙は止まってくれない。

 むしろ、あふれでてくる。


「……ダメだ……言えばいいってもんじゃねぇ」


 当たり前の真理と向き合う。

 覚悟の重さと、あらためて向き合う。



「そうじゃねぇんだ……もっと……ちゃんと……もっと……ぅぅ」



 砕けそうな心を抱きしめて、

 どうにか、こうにか、自分と向き合う。


「痛い……辛い……苦しい……死にたい……」


 本音の言葉をぶちまけて、

 その上で、


「受けとめろ、全部。全霊で。……俺をゆがませる弱さも、全部、俺のものだから……逃げずに向き合え……」


 自分自身に命令する。

 無茶を通せと無理を言う。


「たのむから……折れるな……お願いだから、折れないで……折れたくない……失いたくない……」

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