3話 お前らの気をひきたかったんだよ。そんだけ!


 3話 お前らの気をひきたかったんだよ。そんだけ!


「受けとめろ、全部。全霊で。……俺をゆがませる弱さも、全部、俺のものだから……逃げずに向き合え……」


 自分自身に命令する。

 無茶を通せと無理を言う。


「たのむから……折れるな……お願いだから、折れないで……折れたくない……失いたくない……」


 自分の深い部分が叫んでいた。

 なくしたくないものがある。

 だから、あがき続けてきた。


 世界の全部を丸ごと背負って、

 今日まで、必死になって積み重ねてきた。


 だから重い。

 だから辛い。


 ――そんな、

 深い悲しみの底でうずくまっているセンのもとに、

 彼女たちは姿をあらわした。


「あ、おった」


 威勢よく屋上のドアを開けて、

 ズカズカと、センの近くによってくるトコ一行。


「まだ、泣いてるやん……顔ぐっしゃぐしゃにして……あんた、ほんま、どないしてん」


 心配そうにそう声をかけてくる彼女に、

 センは、どうにか、こうにか、涙をぬぐい捨ててから、


「すぅ……はぁ……」


 一度、深く深呼吸をはさみ、


「……ぉ、お前らの気を引きたかったんだよ」


 気合いを入れなおした顔で、

 まっすぐに、トコの目を睨み、


「俺は……あの、あれだ……専業主夫希望でな。金持ちの逆玉を狙っていて、いろいろ考えた結果、この泣き落とし作戦をおもいついた。誰か一人でも釣れたらいいなと思ったんだが、まさか、全員でくるとは……空気のよめない連中だ……一人でこいよ……くそが……」


「……あの、めちゃくちゃ嘘くさく聞こえるんやけど、それも作戦?」


「……当たり前だろ……全部、作戦だ……こんな雑なナンパに引っかかってんじゃねぇよ……バカ女ども……」


 言いながら、しつこく零れてくる眼球をぬぐうセン。

 黒木が、


「それなら、そろそろ泣き止んだらどうです?」


「うっせぇ……俺はかなりの演技派で、いつでも泣けるという特殊技能をもっているんだが、こいつは、一度、泣き始めると、なかなか止めることができない、というデメリットがついているんだ」


「……頑として、その無意味な嘘をつき続けることに、いったい、なんの意味があるんや……」


 センの鬱陶しさに対し、普通に呆れてきたトコ。

 トコだけではなく、紅院も黒木も呆れ顔をしていて、

 茶柱だけは、ゲームボーイカラーでパワプロク〇ポケットをやっていた。

 彼女は、いつだって、ゆるぎない。


「うっせぇ……うっせぇ、うっせぇ、うっせぇ、うっせぇえええ! ……くそ……ああ、無様だ……くそが、なさけねぇ、みっともねぇ……ダサすぎる、くそがぁ……ド畜生……」


 センは、ついに、自分の無様さに耐えきれなくなり、

 懐から、銀の鍵を取り出して、




「――俺はまだ頑張れるっっ!!!」




 そう叫んで、過去に飛ぼうとした。

 が、けれど、


「……っ……あ? なんで……っ」


 タイムリープすることができず、焦りだすセン。


 何かの手違いがあったのかと思い、

 もう一度、


「俺は! まだ! 頑張れる!」


 叫んでみたのだが、しかし、結局、


「な、なんでだ……どうして……」


 この銀の鍵が不良品だったのかと思い、

 ほかの銀の鍵を握りしめて、

 『俺はまだ、がんばれる!』と宣言してみたが、

 結果は同じで、うんともすんとも。

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