71話 私のDQN力は6000です。


 71話 私のDQN力は6000です。


「普通に殺すつもりで殴ったんだが……生きているな……」


 無意識に手加減してしまったということに気づき、

 その事実に対してイラっとする。


「……まだ、俺は、不自由だったころの俺に縛られているのか……」


 ギリっと奥歯をかみしめる。

 不快感が膨れ上がる。



「もう、くだらないことにとらわれたりはしねぇ。俺は自由になるんだ」



 そう自分に言い聞かせながら、

 センは、スタッフの心臓を踏みつぶそうと、

 勢いよく右足を上げるが、

 しかし、そこで、


「おい、お前! 何をしている!」


 少し離れた場所にいた他のスタッフBが駆け寄ってきて、

 倒れているスタッフAの安否を確認してから、


「……どういうつもりだ? 貴様、何をしている? なぜ、彼を殴ったりした? 理由があるなら、聞くが、しかし、何があろうと、暴力は――」


 などと、あまりにも『まっとうなこと』をほざくスタッフBに対し、

 センは、普通にイライラして、


「カスが、俺の前で、しゃべるな、しんどい」


 などと、DQN力全開の発言を吐き散らしながら、

 当たり前のように、重たい拳をぶちこんでいく。




「ぶふぅうう!」




 もちろん、殺すつもりで殴ったのだが、

 しかし、またしても、


「くそがぁ! また死んでねぇ! 邪魔するなよ、センエース! もう、俺は、くだらねぇことに囚われはしない! 俺は、俺の思うままに生きる!!」


 怒りを叫ぶセン。


 ――と、そこで、

 懐にしまっていた、『ラピッド兄さんからもらった身分証明書』が、

 ブーン……と、鈍い音を立てながら発光しはじめた。


「……ん? なんだ?」


 不審に思っていると、

 身分証明書は、ギギギっと奇怪な音をたてながら、

 禍々しい剣状に変形し、センの心臓を突き刺そうとしてきた。


 だが、


「くく……その程度の魔力で、俺を殺せるとでも? ヘソで茶が沸くねぇ」


 センの心臓めがけて飛び込んできた剣は、

 センに触れる前に、センの覇気だけで、無残に砕け散った。



「俺を殺したかったら、『闘いの神』でも連れてくるんだな。まあ、もはや、よほどの神であっても、俺を殺すことは不可能だろうが」


 などと大言壮語を口にしていると、

 そこで、





「――状況が、イマイチ、理解できないな……」





 唐突に、瞬間移動してきたラピッド・ヘルファイアが、

 周囲の状況を確認しながら、そうつぶやいた。


 ラピッドは、強い目で、センを睨みつけて、


「……説明しろ。クソガキ。これは、どういう状況だ?」


「見てわからないやつには、説明したってわからねぇよ。てめぇの無能さを嘆け、ザコ野郎」


「……ザコ? まさかと思うが、それは、僕に言ったのか?」


「当たり前だろうが。耳までザコか。救いようがねぇな」


「……栄えあるゼノリカの天上、九華十傑の第十席、序列35位であるこの僕を……このラピッド・ヘルファイアを、貴様、愚弄したな」


「相変わらず長ぇ名前だな。その地位にいるのがどんだけ自慢か知らんけど、自己紹介するときは、なるだけ、手短に頼むぜ。気高き俺様の『数秒』を奪うんじゃねぇ。俺の数秒は、てめぇの命1万個よりもはるかに尊いんだからなぁ」

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