79話 それでは、そろそろおいとまさせていただきます。

 79話 それでは、そろそろおいとまさせていただきます。


「普通に『こいつマジでヤバいな』って思ったわ」


「……弟が死んだ? もしかして、それも、神話生物関係か?」


「いや、病気や。筋ジストロフィー系の、どんどん筋細胞が死んでしまう先天的な病気。特発性の奇病で、生まれた時には『5年生きられるかどうかわからん』って言われとったけど、ウチの会社が偶然開発した薬が、それなりに効果を発揮したみたいで、結局、10年ちょっとは生きることができた」


 ちなみに、その薬を開発するように命令を出したのはトコだった。


 ミレーが無茶を通してくれたおかげで、

 会社内でのトコの発言権は、かなり大きく残った。


 『ガキのいうこと』であっても、

 それが『本気の命令』だったら、

 従わなければいけない。


 結果、『数百億人に一人』という超低確率の『奇病』の薬に、

 多大な時間と労力が裂かれることになった。


 『バカな金持ちのワガママ』と非難もされたが、結果的には『欠失(けっしつ)した遺伝情報を正確に読み取れる薬』の開発に成功したため、『日本だけで3万をこえる同系統の患者』の寿命を大きく延ばすことになった。


 特定の奇病に『だけ』効く薬など、

 そっちの方が、作るのは難しい。


 結果論ではあるが、

 トコの行動は、多くの人を救った。



「……だいたいのことは分かった」



 トコの話を真摯に聞いていたセンは、

 そこで、総括するように、



「お前たちの状況、世界の状況、なにもかも、だいたい、おおよそは把握した」



「わかってくれたか。ほな――」





「というわけで、そろそろ、おいとまさせてもらう。お茶とお菓子、ご馳走様でした。結構なお手前でした。たぶん。知らんけど」





 そう言いながら、センはスっと立ち上がって、

 出口へと向かう。


 背後で唖然としているトコの視線を感じつつ、

 センは迷わず、帰るために、ドアへと向かう。


 すると、当然のように、

 ドアの前を守護しているメイドが、

 キッと、睨みをきかせてきて、


「あなたに人の心はないのですか?」


 と、そんな感じで詰め寄ってきた。


「一応、俺も人間だから、なくはないと思うぞ。ま、実際、微妙だけどな。もしかしたら、俺、人間じゃないかも。人間じゃなかったら、なんなんだろうね。神様かな? こうなってくると、その可能性もゼロではなくなってきたね。知らんけど」


 と、そんなゴリゴリの『ファントムトーク』を返していくセンに、

 ガッツリとイラだった顔をするメイド。


「あの話を聞いて、あれほどの想いを聞いて、どうして、助けようと思わない!」


 そう叫んできたメイドさんに対し、

 センは、


「……」


 『さて、どうしたものか』、

 という顔で固まってしまう。


 『言いたいこと』は、いくつか、頭の中に浮かんでいるが、

 しかし、あまりキレイに纏まってはいないため、

 どのように整理するかに悩んでいる。



「何を黙っている! 『どうして助けようとおもえないのか』と聞いている! 答えろ! クソガキ!」


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