26話 ゆがんでいく。


 26話 ゆがんでいく。


(検算しとる暇はない――ぶっつけでいく――相対性理論への反逆――F-クリエイションをフルで使っても、ワシそのものを通過させられるだけの穴をあけるのは、さすがに厳しい――となれば答えは一つ――ワシの記憶だけを……過去へと飛ばす!!)


 指がはちきれそうになるほど、豪速でコードを打ち込んでいく。

 膨大な量の神字を組み合わせて、システムを構築。


 30秒も必要なかった。

 たったの15秒で、トウシは、


(よし、完成!!)


 あっさりと、記憶を過去へと送るシステムを構築すると、


(――『5年ぐらい前』に飛んで、今日のために、準備したる! 5年もあれば、このバケモノを殺す手段ぐらい、いくらでも…………ん? アクセスできん……なんで……システムは完璧やのに……なにかミス……いや、違う……『ワケの分からんプロテクト』がかかっとるっ……ふざけやがって……ほな、いつやったら……え、『今朝』だけ?! うそやろっ! 今日の朝に戻ったところで、ロイガーを殺せるわけ――)


 などと、絶望している間に、


「25、26、27……」


 タイムリミットが迫ってきている。


(クソが! しゃあない! 飛んでから考える!!)


 心の中でそう叫ぶと、

 トウシは、タイムリープのコマンドを実行する。


 その瞬間、トウシの手の中のスマホが、

 膨大な光を放つ。


 その光に包まれると、

 トウシの意識は、一瞬だけ、ストンと落ちた。






 ★







「――はっ……はっ……は……っ」


 ――目が覚めると、

 トウシは、自分の部屋で眠っていた。


 すぐさまベッドから起き上がり、

 自分が死んでいないことを確かめてから、

 窓の外を見る。


「……朝……今日の?」


 確認するためにスマホの電源をつける。

 スマホのデータ上では、間違いなく、今日の朝だった。


「……成功……とりあえず、記憶を過去に飛ばすことは出来た……」


 そこで、

 ズキっと、頭が痛んだ。


「……いったぁ……」


 額を太いトゲで刺されたような、

 ハッキリとした疝痛(せんつう)。


 持続的な痛みではないのだが、

 ズキズキとした余韻は残っていた。


(……もしかして、これ、タイムリープの副作用か? 副作用というより……直接的なダメージである可能性もある……『記憶を過去に飛ばす』という行為は、明らかに異常……そんな異常をぶつけたんやから、そら、何かしらの障害が出る可能性はゼロやないやろう)


 『正しい手段』で飛べば、

 あるいは、そういった後遺症的な何かもないのかもしれないが、

 トウシのやった手段は、かなりの邪道も邪道。


 手前勝手かつ傍若無人に、世の理(ことわり)を書き換えた。

 その代償は、むしろ、あってしかるべきなのかもしれない。


 ――などと、そんなことを考えつつ、

 スマホの画面を眺めていると、

 そこで、トウシはきづく。


「……ん? ……ニューラルネットワーク補助アプリが、ダウンロードされとる……なんでや? ワシは、自分の記憶しか過去に飛ばしてないのに……」


 これをダウンロードしたのは、

 今日の放課後。


 この奇妙な矛盾に対し、

 トウシは、


(むちゃくちゃしすぎて、コスモゾーンがバグったか……? バックアップデータが破損したか……アカシックレコードのメモリフラグがイカれたか……キャンセルの処理が追っつかんようになったか……それとも、単なるデバッグミスか……あるいは、そもそもの仕様か……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る