1話 ウーザすぎーるぅ♪


 1話 ウーザすぎーるぅ♪



 その日の夜には、

 『センエースを知らぬ者の方が少ない』という、

 『ゾーヤ的には正しい世界』が誕生した。


 盲目的に崇める者、

 反射的に拒否反応を示す者、

 千差万別、十人十色の反応を示す人類。


 『センエースを崇める者』に『大いなる祝福』を与え、

 『センエースを拒絶する者』に『過剰な刑罰』を振りまく300人委員会。


 この、あまりにも異質な状況に対し、

 センは、




「ウーザすぎーるぅ♪ ウーザすぎーるぅ♪ ほんわかぱっぱー、ほんわかぱっぱー♪ ウーザすぎーるぅぅ♪」




 と、『ぼくドラえ〇ん』の替え歌、

 『とりまウザすぎる』を口ずさむことで、

 全開の現実逃避を決め込んでいた。


「陛下、しょうもない歌を口ずさむのはおやめください。王には王にふさわしい鼻歌というものがございます。今後、曲を口ずさみたくなった時は、『ピアノ協奏曲第二番』か『白鳥の湖』限定でお願いします」


「お前の中の『王像』が『かなり突飛な存在である』と思うのは俺だけ?」


 と、そこで、黒木が、


「ゾーヤさんの妄言にツッコミを入れるのであれば、『ロシアのクラシック限定とか、愛国心と思想がにじみ出すぎだろ』が正解かと思いますが?」


 と、インテリアピールマシマシの訂正をいれてきた。

 そんな彼女に、センは、しんどそうな顔で、


「……『ピアノ協奏なんたら』って、ロシアのクラシックなの?」


「ピアノ協奏曲第二番は、ロシアの巨匠セルゲイ・ラフマニノフが作曲したピアノ協奏曲のジャンルにおける最高傑作です。不評に終わった第一番でどん底に落ち、ピアノをひくことすらできなくなったラフマニノフは、友人に紹介された精神科医兼ヴィオラ奏者の治療によって自信を取り戻し、第二番で輝かしい復活を遂げました。栄光と挫折を知る者だからこそ奏でる事が出来る、華やかで美しい旋律は――」


「もういい、もういい、もういい! 聞いた俺が悪かった! 誰も、そこまでの解説は求めてない!」


 黒木のマシンガン解説をさえぎるセン。

 ――と、そこで、


「あ、アイテム発見」


 このイカれた空気感の中、まじめにアイテム探索をしていた紅院が、発見したアイテムを、センに差し出しながら、


「また、ウルトラレアのアイテムみたいね。ここ最近、とんでもなくレアなアイテムばっかり出るから、感覚がマヒしてきて、さほど嬉しいとも感じなくなってきたわ」


「同感だぜ。これまでのループだと、ウルトラ級が出た時は、涙を流して喜んでいたんだが……もはや、何も感じねぇ。いや、まあ、強くなれるから、嬉しいのは嬉しいんだが、レア度に見合った感動ではないな。幸福ってのは、過剰になると慣れて飽きるが、しかし、その対となる『絶望』ってやつは、いくら積み重なっても、慣れることも、飽きることもはない。いつだって新鮮に苦しくて辛い。本当に、人生ってやつは不公平というか不条理というか……」


 などとブツブツ言いながら、図虚空を強化するセン。

 もはや、強化しすぎて、ウルトラレアのアイテムを食べさせても、

 『実感できない程度の上昇』にしかならない。

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