59話 醒めぬ悪夢に落ちるがいい。


 59話 醒めぬ悪夢に落ちるがいい。


(これも、まあ、本音なんだろうなぁ……)


 センは、心の中でつぶやく。


『息が苦しい。ちょうどいい暗さだ。全部心地いい。痛いと感じる全てが、からっぽの嘘で満たされて、冷たくなっていく。わからない。全部。消えてしまう。何もかも。どうしたらいい。何を言えばいい。何を言ってほしいのか、言ってくれれば、少しは分かるはず。本当に? 知らない。どうでもいい。死ぬなよ。ウザいな。形にならない。声にならない。全部溶けてなくなって、そしたら、心の位置が分かる? 嘘ばかりつくなよ。からっぽだな』



(……歌詞か? ……いや、めちゃくちゃに書きなぐっているだけか……)


『下の階をユウキのフロアにするとは聞いていたが、なんで、死んでも、普通にあの子のために契約とかしてんの? ウチの親、どっちも頭わるすぎ。ほんと嫌い』


「……死んでも契約……もしかして、今も?」


『誰も使わないというのも、もったいない。倉庫として使ってやる。ありがたく思え』


「……んー……」


 そこで、センは、日記をもとの場所に戻すと、

 そのまま、きびすを返して、

 瞬間移動で、下のフロアに向かう。


 一部屋ずつ、サクっと中を確認していく。


 生活感は皆無だし、

 倉庫として使われている様子もない。


 ただ、


「……ビンゴか……?」


 とある一室の奥に、

 『お札型のマジックアイテム』で封印されている部屋を見つけた。



「――『一閃』――」



 マジックアイテムを力技でブチ破り、

 中に入ると、



「……はい、みっけ」



 真っ白な空間、

 床には大きなジオメトリ、

 そして、床の中央に置かれている、一冊の魔導書。


「……探知阻害と、気配切りと……あと、ガーディアンか……」


 そうつぶやきながら、

 センが歩を進めると、


 ジオメトリがカっと光って、


 闇を具現化したような怪物が召喚された。



「……盗人よ。貴様の現実は今日終わる。私はコス。夢をつかさどる神の一柱。醒めぬ悪夢に堕ちるがいい」



 コスの名乗りに対し、

 センは、ほとんどシカト気味に、


「……図虚空、あいつのランク、分かるか?」


「A級」


「……ちっ……いらねぇ」


 そうつぶやくと同時、


「一閃」


 図虚空を横に薙いだ。



「きぴっ――」



 一瞬で中心をぶった切られ、

 あっさりと死んでしまったコス。


 センは、コスの死体を、邪魔だとばかりに蹴り飛ばし、


「これはフェイクで、実はエイボンじゃありません、みたいなオチじゃないだろうな……」


 そうつぶやくと、

 図虚空が、


「A級をガーディアンに使っておいて、フェイクはありえないだろう。センエース、お前、強くなりすぎて、いろいろと、現実を見失っているぞ」


「……そうか。A級って、めちゃくちゃ強い部類だったっけ……ま、でも、あの茶柱なら、『その勢いで徹底したフェイク』もなくはない気もしないではない……」


 などとつぶやきながら、

 センは、表紙をジっと見つめる。

 最初は、意味不明な文字だったが、

 数秒たつと、ジワァっと、日本語に変化していく。


「……間違いなく、エイボンの書だな……よし、まずは、第一関門突破」

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