33話 悪食で雑食な大食漢。
33話 悪食で雑食な大食漢。
「死ぬ気で乗り越えてみせろ。そうでなければ、未来はない」
好き勝手に、自分の言いたいことだけを乱雑に言い捨ててから、
ニャルは、その場から離れていった。
残されたセンエースは、グっと奥歯をかみしめて、
「いい加減にしてくれよ。なんで、いつも、こうなる? 俺は、特に優秀でもなんでもないんだぞ。頭だって、よくない。特に際立った才能もない。見た目はご覧の有様で、運もよくない。俺は基本、凡人だ」
ぶつぶつと、どうでもいいことをつぶやきながら、
クルルーの一挙手一投足を睨みつけている。
「努力できる器だけは、そこそこ自信があるが、休まないカメは、この世に俺一人ってわけじゃない……つぅか、探せばきっと、休まないウサギだって、この世界にはいるはずだ……いるはずっつーか、いるんだよなぁ……」
そこで、センは、
マイノグーラと戦った時、頭の中に浮かんだ『誰か』を思い出した。
奇妙なイントネーションの関西弁を使う、
血が逆流するほど腹立つクソ野郎。
『あいつは、休まないウサギだ』と本能が理解していた。
記憶の片隅にこびりついている『あいつ』は、
ポテンシャルだけで言えば、センエースの遥か先にいる。
「……俺より優れた人材は……『腐るほど』はいないかもしれないが、確かに、間違いなく存在する……」
センエースは、自分自身の価値を値踏みする。
頭てっぺんから、つま先まで、しっかりと査定して、
その上で、一つの結論を出す。
「……なのに、なんで、俺なんだろうねぇ……最初から俺じゃなく、『あいつ』が選ばれていたなら、俺だって、無駄に意地をはることはなかった……遠くから、『あいつ』の活躍を眺めている人生の方が……遥かに楽だった……」
疑問という名の結論。
『決して答えが出ない問い』という解答。
「誰かを頼れる人生は、きっと、すごく楽なんだろうなぁ……責任を全て押し付けて、遠くから英雄の勝利を祈るだけの人生……素敵だねぇ」
心から思う。
その人生の方がはるかに楽だと。
そういう人生ではないことを心から恨む。
『誰』の『何』を恨むとか、そういう『局所的な話』ではなく、
現在のセンエースは、『この世の全て』を恨んでいた。
自分に全部を押し付けてくるこの世界の不条理に対し、
センエースは心の底から憎悪を抱く。
恨んで、憎んで、嫌って、ムカついて、
――そういう負のエネルギーを、全部、腹の中でまぜこぜにして、
センエースは、
「……ふざけやがって……」
あやふやな言葉に押し込んで、
『原動力』の一つにしてしまう。
センエースエンジンの燃料は無数にある。
可能性や希望や責任感だけではない。
なんだって燃料に出来るすぐれもの。
悪食(あくじき)で雑食の大食漢。
怒りも、孤独も、苦悩も、痛みも、
全部、全部、全部、飲み込んで、
――運命と闘う理由にしてみせる。
「……降りてやらねぇ……」
センは、静かに、武を構えなおした。
歯を食いしばって、前を見る。
「絶対に降りてやらねぇ……この絶望、この苦しみ……全部のみこんで、俺は歩き続ける」
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