41話 反応反射。

 41話 反応反射。


 センの視界が、

 『飛び交う刃』の残像だけで埋め尽くされる。


 もはや、脳で処理できる範囲にない。

 それを理解すると同時、



(前提は全て積んだ……あとは、俺の潜在能力に賭ける……っ)



 穴だらけの不完全な思考が、おぼろげな線になる。


(可能性があるとしたら、カウンターのみ……チャンスもタイミングも、おそらく一瞬……さあ、決めてくれよ……俺)


 自分の深部に全額をベットする。

 と同時、センは考えるのをやめた。


 脳に送る予定だった気血を、全て、

 『もっと深いどこか』へと注ぎ込む。


 『どこ』に注がれたのか、言葉で説明するのは不可能。

 現在のセンは、基本的に、自分の行動を理解していない。


 全ては、高次の反射。

 『こうしたいと願う全て』に、

 魂魄の芯が、驚くほど完璧に応えてくれる。


(……白い……)


 世界がモノクロになって、

 安全地帯が白色に見えた。


 時間経過と共に歪んでいく安全地帯。

 ゆえに『どう動くべきか』のルート演算が求められた。


 極限戦闘時におけるセンの頭は、

 爆熱を放散しながら沸騰する。


 数兆を超えるパターンを、一瞬で予測演算。


 ――この技能は、決して、才能によるものではない。

 ソウルゲートで200億年。

 戦闘力を鍛える以外に何も出来ない空間で、

 ありえない量の時間を積んだからこそ可能なスキル。


 狂うほどに没頭してきた。

 『年』を単位にすれば200億だが、

 『試行回数』を単位にすれば、

 もちろん、その質量は『京』を超えていく。


 万を、億を、兆を、京を超えて、

 愚直に繰り返してきた。


 だから見える。

 それだけの話。


(刃の弾幕が厚すぎる……俺の身体能力だと、完全回避は不可能)


 考えるのをやめても、

 反射で演算結果が頭に浮かぶ。


 自身の感覚上では、一ミリも頭を使っていないのに、

 勝手に『思考のパッケージ』が脳内を埋め尽くす。


(俺の体が、バレェ選手なみに柔らかければ、無傷も可能だっただろうが……残念ながら、俺の体の柔らかさは人並み)


 ――現状のセンは、あくまでも、戦闘力が高いだけ。

 肉体スペックは重病レベル。


(左腕を捨てれば、ウムルの懐に潜りこめる可能性はある……確率は8割ほど……高い勝率。ただ、失敗すると、首を刈られる……)


 演算結果を受け入れつつ、

 センは、大胆に、安全地帯へと飛び込んで、

 白い影に、自分の体をあてはめていく。


 その途中で気づく。


(あ、バレるな、これ……左腕を囮にするのは悪手……)


 『ウムルの頭の中』が見えたような気がした。

 不思議な感覚だった。

 すべてが繋がっていくような錯覚。


(こうなったら、むしろ『図虚空を持っている右腕』を囮にするか……しかし、右腕を失って……『次手』に『最善』を求められるか? 左腕でもいけるか? ……ああ、いける……なんでか知らんけど……いける気しかしない……っ!)


 豪速の自問自答回答。


 豪快な『刃の弾幕』の中で、

 極限の集中力を爆発させ、

 ウムルの懐を目指すセン。


 すべてが噛み合った『神の時間』に、

 飛翔する刃たちが、下から、

 センの腕に食い込んだ。


 スパっと肉を裂き、

 ザクっと骨を切断し、

 また、スパっと肉を裂く。


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