神B章 究極超凡人センエースの大冒険

1話 独白。

 1話 独白。


 紅院家の庭は広く、

 離れの出口から、敷地外に出るまでだけで、

 500メートルは普通に歩いた。


(広すぎるんだよ……なんだ、この家……頭悪すぎだろ……)


 心の中で、ぶつぶつと文句をたれながら、

 先ほどのトコとの会話を思い出しつつ、




(……漠然と、心のどこかで『メンドくさくなるかも』とは思っていたが、想像をはるかに超えるメンドくさい状況になりそうで、草もはえねぇ)




 センは賢くないが、バカではない。

 『世界情勢に対して無関心』でもなければ、

 『何も考えずに毎日を生きている』というわけでもない。

 ゆえに、『自分の力』の『社会的価値』を、

 ある程度正確に測るぐらいはできる。


(……『スーパーオーパーツを使っても勝てない神のバケモノ』を瞬殺できる力……改めて『一文』に整理すると、やべぇな……正直、そんな力を、知らん間に身に着けていた自分が気持ち悪ぃ。これが、仮に『1000年修行して手に入れた力』ってんなら、たぶん『俺が……俺こそがガ〇ダムだ!』ぐらいの勢いでイキれもしようが……この状況だと、さすがに、気味が悪すぎて、尻込みしか出来ねぇ。『何が何だかわからないものすごく強い力』を、いきなり与えられて、喜べる人間はキンキンのサイコパスぐらいのものだろうぜ)


 センは間違いなくラリっているが、

 しかし、どこかで『まっとうな常識』も持ち合わせているため、

 『ふはははは! 無敵の力を手に入れたぞぉ! 世界中の愚民ども、俺の足元に傅けぇ!』

 とはならないのだ。


 『変な力』を手に入れた常識人の彼が、最初に思うことは、

 よくよく考えれば当たり前の話だが、

 『え、なに? キモいんですけど……』となる。


 もろもろ、いろいろ、限定条件を精査した上で、

 彼の結論は、だから、


(こんな精神状態で、『地球の代表』なんざ、出来るわけがねぇ。まあ、仮に、精神状態が万全でも『絶賛(ぜっさん)御断(おことわ)り奉(たてまつ)るクソ案件』だが……)


 『過度な報酬』に対する拒絶も、

 ほとんど同じ理由で、

 確実に『エグい責任』がセットでついてきそうだから、

 『欲しい』と思えないのである。


(あいつらの想いを全て受け止められるほど、俺の器は大きくねぇ。その責任だけは果たせる気がしねぇ。だから、リーダーは絶対に無理)


 自分の前提を再確認する。

 絶対に揺るがない、

 センの中の指標。


 責任感は強い方だが、

 しかし、だからって、責任を背負うのが好きなワケじゃない。


 『背負ってしまった責任』は大事にするが、

 『責任を背負いたい』とは思っちゃいないのだ。


 彼を理解する上で、ここは非常に重要な点。


 ――ただ、

 『それ』を言い訳にして、

 『俺、しーらない』と脳死全開のスットボケを決め込めるほど、

 『まっとうなクズ』では『ありたくない』という、

 妙なプライドだけはあるため、


(でも、もし、また昨日と同じようなことが起きたら……俺は、普通に、あいつらの前に立つだろう……)


 迷いはある。

 死に対する恐怖は普通にある。


 センは、心が死んでいるのではない。

 自殺願望があるわけでもない。


 けれど、命の土壇場に立った彼は、

 間違いなく、ゆるぎなく、絶対に、

 『とびっきりの勇気』を叫ぶだろう。


 ――なぜなら、本物の大馬鹿だから。


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