11話 英検三級より価値がない資格。


 11話 英検三級より価値がない資格。


「シャーデンフロイデは、心の基盤だ。俺だって、『イケメン俳優と美人女優が破局した』と聞いた時は、握りしめた拳を天にかかげるぜ。俺はイケメンが嫌いだからなぁ」


 などと供述しているが、

 実際のところ、他人の不幸をわざわざ全力で喜んだりはしない。


 良くも悪くも、センは、いつだって、

 『善』の側に立ってしまう。

 ――ただ、センは、『善人呼ばわり』されるのをひどく不快に感じてしまうため、

 いつも、ワケの分からない過剰なニヒルさでファントムトークを乱舞してしまう。

 いつだって、どうしようもない変態。

 それが、彼の本質。

 絶対に揺るがないセンエースの実質。



「目立ったら叩かれる。そんなもんだよ、人生は」



 達観したことを言いながら、

 センは自分の全部を整えていく。


「望んで目立ったわけじゃないのに、目立たされてしまったという点に関してだけは、大いに文句をいわせてもらいたいところだが、しかし、嫌われることに関しては別に、どうでもいい。好きに憎めばいいさ。それで、心が軽くなるなら、受け止めてやる。俺にとっては大した重荷でもねぇ。むしろ、『俺の負担を減らすため』なんて理由で我慢されるより、身勝手に感情をぶつけられる方が、よっぽどマシだ」


「……信じられないマインドの持ち主だな、貴様は。気持ち悪い」


「悪口にコクとホップが足りないね。その程度じゃ、俺の心には響かない」


「なぜ、貴様は、そこまで他者を想える?」


「だから、違うというのに、なんで、全員、誤解する? 別に想っちゃいねぇよ。どっちの方が、『俺的に楽か』っていうそれだけの極めて単純な話だ。他者の苦しみは、どうしようもねぇからしんどい。しかし、自分自身が苦しむ場合は対処のしようがあるからマシ。それだけの話。分かりやすい話をしているだろうが、ボケが。穿って捉えるんじゃねぇよ、カスが」


「……なるほど。確かに、貴様には、王を名乗る資格がある」


「いらんけどなぁ、そんな資格。俺的には、漢検三級より価値がねぇよ」


 センは、そこで、

 ビシっと武を構えて、


「まあ、でも、背負うと決めたから……責任だけは果たすさ。俺はワガママなクソボッチだが、責任感だけは一丁前なんだ。無駄に高すぎるプライドという言葉でくくられることも多い責任感だが、見方を変えて、言い方を整えれば、数少ない俺の長所になりうる。将来、就活の面接で長所を聞かれたさい、『責任感が強い』の一点張りでいこうと思っているくらいだ」


 ファントムトークで世界を翻弄しつつ、

 センは、まっすぐにイブを睨みつけ、


「さて、と。それじゃあ、そろそろはじめようか。――いくぞ、イブ=スティトゥル。てめぇの全部を、ボッコボコにして奪い取る」


 そう言ってから、

 空間を駆け抜けるセン。


 最初からフルスロットルで、

 今の自分に可能な覚醒の全部を惜しみなく投下する。


 まさに全身全霊。

 一点の曇りもないまっすぐな全力。


 そんなセンの全力に対し、


「なるほど、確かに強い」


 イブはそうつぶやきながら、

 センの猛攻を、華麗にさばいていく。

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