12話 あまりにも高潔すぎる、神の領域に届いた慈愛。


 12話 あまりにも高潔すぎる、神の領域に届いた慈愛。


 センの全力に対し、


「なるほど、確かに強い」


 イブはそうつぶやきながら、

 センの猛攻を、華麗にさばいていく。


 丁寧で荘厳。

 イブの戦闘力は、なかなか深みがあった。


 アウターゴッドを名乗るだけのことはある。

 と、センに思わせたほど。


「やるじゃねぇか、イブ。ヨグシャドーとスーパーセンエースをのぞけば、お前がナンバーワンだ」


「ヨグシャドーはともかく……スーパーセンエース? それは、なんだ?」


「いちいち説明するのも面倒だ! てめぇで勝手に想像しろ!」


 叫びながら、センは心のギアをあげていく。

 存在値のギアはすでにMAXだが、

 奥底の活力には、まだ『先』がある。


 もっと先へ、もっともっと先へ。

 センエースは、自分に没頭していく。


「強いな、本当に。もし、正面から戦っていたとしたら、普通に負けていただろう。信じられない武の極み。センエース。貴様は異常だ」


 イブは、素直な感想を述べてから、


「しかし、勝敗は、互いの力量差で決まるわけではない。事前にどれだけ『勝利のための準備』を積めているかが重要」


 そう言いながら、

 イブは、パチンと指を鳴らした。


 すると、

 センの後ろで、闘いを見守っていた茶柱たちが、一斉に悲鳴をあげた。


「……おいおい……」


 苦しんでいる彼女たちを横目に、

 心配そうな顔をしているセン。


 そんな彼に、イブは、ニィと黒く笑って、


「絶望に『底』も『天井』もない。苦しみは永遠に膨らむばかり。そんな真理を、ぜひ知ってもらいたいと思ってね」


「……」


「貴様を憎むだけでは、もう足りない。貴様の『苦痛』だけが、全人類の絶望をいやす。さあ、どうする? 人類の王センエースよ!」


 そう叫びながら、

 特攻をしかけてきたイブ。


 火力マシマシの攻撃。

 モーションのデカいロマン系の大技だったので、

 避けるのは難しくなかった。


 しかし、センは、


「……ぐふっ……」


 イブの特攻を、あえて、その身で受け止めた。

 渾身の貫手が、センの腹部をつらぬく。


 口から血を吹き出すセン。

 大量の血を浴びて真っ赤に染まるイブ。


 イブは、センの腹部から手を抜いて、

 顔にかかったセンの血をなめながら、


「この上なく高潔な血だ、センエース。貴様の慈愛(じあい)は神の領域にある」


「……じ……慈悲深(じひぶか)い神なんて……い、今までみたことがねぇんだが?」


 と、軽く皮肉りつつも、

 激痛に耐えつつ、

 チラっと、茶柱たちに視線を向ける。

 相変わらず、苦悶の表情をしているが、

 しかし、のたうちまわるほどの痛みは止まっているようだった。


 センが痛みを背負うことで、

 激痛から解放された彼女たち。

 その事実に対し、ゾーヤが怒りくるう。




「私たちの痛みなど、どうでもいい! 王よ! お願いですから、ご自身を一番に考えてください!!」




 ダメ息子の愚行にブチギレる母親のように、

 ゾーヤは、全力で、センの行動を叱りつける。


 愛を向けられると、愛を返すようになる。

 返報性の原理。

 ゾーヤは、これまで、愛など知らずに生きてきた。

 だからこそ、今の自分の感情がもどかしい。

 理解できない感情の暴走。

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