43話 修行僧スイッチ。


 43話 修行僧スイッチ。


(貴様が晒した無様は、茶柱の中に強く刻まれてしまった。せっかく、時間をかけて積み上げてきたというのに、この愚か者め)


「……今までの努力が……水の泡か……」


(貴様がクズ男として稼いだ信頼を、また取り戻すことは、もはや困難の極み。積み上げるのは大変だが、壊れるときは一瞬。それが信頼というもの)


「普通、その法則は、プラスの方にのみ働くもののはずなのに……なんで、クズ男としての信頼が、そう簡単に崩れ落ちるかねぇ……」


(そこに関しては、映画版ジャイアン理論が働いている節もあるな)


「なるほど……悪いヤツが良い事をすると、とんでもなくいい事をしているように見えるという、あのクソ理論か……『継続して良い事をしている人間』の方がはるかに尊いはずなのに、なぜか、世間は、『バカなヤンキーが更生する』と過剰に持ち上げやがる……映画版ジャイアン理論は、この世でもっとも愚かな思考形態の一つだ……」


 センは、映画版ジャイアン理論そのものに対しては強い嫌悪感を抱いているが、

 しかし、それが、人間の心理に刻まれた事実の一つであるとは認識している。


 精神的潔癖でかつリアリスト。

 一言で言えば、とてつもなく面倒くさい男。


(そこで、一つ提案だ)


 そう言いながら、

 ヨグは、『難易度爆上げスイッチ』に似たスイッチを、

 センの目の前に具現化させる。


(……『憎悪と向き合う永(なが)き時』を積んだことにより、新たな可能性が解放された。――この『修行僧スイッチ』を押せば、貴様のバギーが、アイテムサーチ能力を獲得し、かつ、習得経験値が5万倍にUPする。そのかわり、K5とのつながりが切れる)


「押すだけで、『マックス恨まれている状態の数倍』の効果か……ちなみに、『つながりが切れる』ってのは、具体的に、どういう状態?」


(それは自分で確かめろ)


「……」


(ちなみに、この修行僧スイッチは、真・難易度爆上げスイッチと同じで、オンオフ可能。ただし、オンオフの切り替えは、初日の朝、ループ直後にしか出来ない。それ以外のタイミングで押しても意味はない。修行僧スイッチの性質が理解できたか?)


「まあ、だいたいは」


(で、どうする? 押すか?)


「……オンオフ可能ってのは本当か? 嘘じゃないだろうな? 正直、お前の言葉は、もう、何も信じられねぇ」


(なら、こう言おうか。私は嘘つきだ。今後も、きっと、嘘をつく。そのスイッチに関しても、嘘かもしれない。それでも押したいなら、押せばいい。貴様の勝手だ。私は知らん。すべて自己責任でよろしく)


「……」


(で、どうする? 押すか?)


「……経験値5万倍……」


 ボソっとそうつぶやくセン。

 さらに、


「つながりが切れる……ねぇ……」


 手の中にある『修行僧スイッチ』を見つめながら、


「都合よく解釈した場合、非常に魅力的なスイッチ……ただ、取り返しがつかない面倒事を引き起こすという可能性もゼロではない……」


(いつだって、未来は見えないもの。それでも踏み出す勇気が、貴様にあるか?)


「なんでもかんでも勇気って言えばカッコつくと思うなよ」

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