55話 センエースの敵。


 55話 センエースの敵。


(……絶死でも……届かない……想定以上だった……まさか、こんな……)


 正直、ナメていた。

 『100万回以上、2万年ももがき続けてきたのだから、普通にクリアできるだろう』と、完全にナメていた。


 だが、センエースの敵は、想像をはるかに超えて強大だった。

 まるで、宇宙そのものみたいに、センの前に立ちふさがる。


 『海を飲み干す』どころの騒ぎじゃない難題。

 まるで『宇宙の全て包み込めるか?』と無茶ぶりされている気分。


 不可能である。

 ――と、理性は認識している。

 普通に考えて、そりゃ不可能。


 ところがどっこい。

 センエースさんは、頭のおかしさが天元突破しているので、


(……失いたくない……)


 この極限状態で、

 センは、絶望を殺して願望を贔屓した。


(絶対に……守ってやる……)


 ボロボロになりすぎて、もはや、奥歯をかみしめるほどの力すら残っていない。

 けれど、そんなことは知ったこっちゃない。

 地獄との向き合い方なら知っている。

 だから、


「……ヒーロー……見参……」


 虚勢を張り続ける。

 ヒーローなんて存在しない。

 ここにいるのは、ただの小汚い凡人。

 『コズミックホラーの権化』を目の当たりにして、

 プルプルと震えているだけの一般人。


 けれど、彼は口に出し続ける。


「ヒィィロォオォオオ! 見参っっ!!」


 バキバキの目で、オメガをにらみつけるセン。

 まるで、理性を失った猛獣。


 その目を見たオメガは、


「その虚仮(こけ)を、いつまで叫べるのか、非常に興味深い」


 そう言いながら、

 右手をセンに向けて、


「蛇滅牙狼ランク3200」


 蛇の牙をもつ狼の霊体を複数召喚するオメガ。


「お前が我慢強いのは知っている。ただ、お前の底を知っている者は少ない。守るべきものがないときの貴様は、田中トウシの天才性で折れることは分かっている。しかし、守るべきものがある時のお前がどこまで舞えるのか。今日、ここで量(はか)ってやるよ。何をすれば、お前が折れるのか。その境界線を、世界と共有させてもらう」


 そう言ってから、

 狼の群れを、センに突撃させる。

 回避など出来ない速度。


 全身をかみつかれ、

 えげつない毒を注ぎ込まれる。



「ぎぁあああああああああああああ!」



 悲鳴がこだまする。

 バラエティ豊かな苦痛が、センの全身をこねくりまわす。


「連鎖破砕ランク3000」


 さらに、骨を砕かれる。

 指先や、手首、背骨、頸椎、

 全身の至る箇所をグシャグシャにされる。


 センの悲鳴はもう枯れた。

 白目をむいて、声も出ない。


 とにかく徹底的に痛めつけられる。

 とことんまで苦しめられる。


 ボロボロになりつくしたセンに、

 オメガは問う。


「まだ舞えるか?」


 ピクリとも動かなくなったセン。

 そんなセンに、オメガは、再度、


「まだ舞えるのか? それとも、もう終わりか?」


 問われたセンは、


「……」


 数秒間、応えることができなかった。

 しかし、

 5秒が経過したところで、

 ピクっと、センの体が動いた。


 のそのそと、どうにかこうにか、

 自分の体を起こそうと奮闘するセン。


 片目はつぶれ、全身複雑骨折で、

 耳も聞こえづらく、頭がズキズキと割れそうで、

 しんどくて、泣きたくて、辛くて、苦しくて、


 ――そんな全部に埋もれながらも、センは、






「ヒ……ロォ……見…………参…………っ」






 勇気を叫び続けた。



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