54話 闇色の天国。


 54話 闇色の天国。


「辛ぇよ……苦しいよ……誰か助けてくれよ……」


「誰も、お前を救ってはくれない。なぜなら、お前は救われる側ではなく、救う側だから」


「……」


「田中トウシも、ソンキー・ウルギ・アースも、所詮は、お前の中に刻まれていたもの。つまりは、お前の力の一つ。いつだって、お前は、お前自身の力で立ち上がるしかない」


「……別に、あらためて言われなくても、そんなことは知っている」


 奥歯にかかる圧が増していく。

 ずっとセンを支えてくれた奥歯。

 砕けぬように、折れないように、

 センの軸を支えてくれていた。


 センを支えているのはそれだけじゃない。

 背骨も肉も皮も、神経や血管の一本一本だって、

 センエースを支えている器の一つ。


 センエースだけが、センエースを支えてくれる。


「……俺は孤高だ……」


 虚仮で恐怖をブチ殺す。


「……ヒーロー見参……」


 虚勢で畏怖をねじふせる。




「ヒーロー見参っっ!」




 全部を賭した。

 これまでに積み重ねてきたもの。

 その全部をブッパして、

 センは、オメガに抗った。


 センは今の自分に出来る最善手を回し続けた。

 これほどの地獄を前にして、

 それでも、『貪欲』かつ『狡猾』に、

 勝利を奪い取ろうと画策して、本気のあがきを世界に刻み込んだ。


 そんなセンに、

 オメガは現実をつきつける。


「魔矢ランク3600」


 それは、一本の矢。

 強い魔力を帯びているが、

 派手さは全くない、下級の魔法。


 でも、美しかった。

 その美しさが理解できるぐらいには、

 センは成長していた。


「……綺麗だ……」


 そんな感想を抱くと同時、

 魔矢は、センの頭部を貫いた。


「ごふっ……」


 吐血するセン。

 ハッキリと、死の輪郭が見える。


「今回も、銀の鍵を後頭部に隠していたようだが」


 オメガは、そう言いながら、

 『Uターンして自分の手元に帰ってきた魔矢』に刺さっている『銀の鍵』を手に取り、


「その芸のなさが身を亡ぼす」


 そう言いながら、オメガは、銀の鍵を、手の中でコナゴナに砕いた。


「田中トウシみたいに、コスモゾーンをハックして飛んでみるか? お前の頭で出来るわけがないがなぁ」


「……俺……なんで死んでないの……?」


「そう簡単に終わっちゃ興ざめだろう?」


 キンと通る声で、

 オメガは、


「彩り豊かな闇色の天国を、存分に味わってくれ」


 そう言いつつ、

 右手を、センに向けて、


「乱刃透斬(らんばとうざん)ランク3500」


 高威力の魔法を放った。

 見えない刃が、センの肉体を切り刻む。

 切断まではいかない程度に、

 全身のありとあらゆる箇所を切り刻む。


「が……はっ……っ」


 頭を撃ちぬかれ、全身ズタズタにされて、

 それでも死ねない地獄の底で、

 センは、


(……考えろ……)


 自分に言い聞かせていた。

 折れない熱量でもって、

 この地獄を処理する方法を、

 必死になって考える。


(……どうすればいい……どうすれば……)


 激痛と絶望に邪魔されながらも、頭が爆発しそうなほど必死になって、どうにか『まともな未来』を奪い取ろうと、思考の底へとダイブしていく。


(……絶死でも……届かない……想定以上だった……まさか、こんな……)


 正直、ナメていた。

 100万回以上、2万年ももがき続けてきたのだから、

 普通にクリアできるだろう、

 と、完全にナメていた。


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