41話 お疲れさまです。


 41話 お疲れさまです。


 頭の回転速度で言えば、茶柱と黒木で、そこまで大差はない。

 ――ここに関していえば、茶柱がぬるいのではなく、

 黒木が、ガチで異常種であるため。


 それなのに、茶柱が、黒木と違い、

 序盤の攻防戦で、それなりにかわせたのは、

 単純に、運の総量がケタ違いであるため。

 茶柱は、『運』という領域で、常に、神がかっている。


 『常に幸運』というわけではなく、

 『ここぞという時の豪運』がえげつない感じ。


 ――とはいえ、



「……手間取らせやがって……詰みだ」



 結局のところ、10分程度で、フィニッシュ。

 エゲつない豪運が、永遠に続くということはない。


 実力差を考えると、10分も持っただけでも大したものである。


「え、ツミカさん、負けたのかにゃ? え、なにがどうなって負けているのか、さっぱり理解できないから、詳しい説明を求むにゃ」


「うるさい。貴様の、あこぎな時間稼ぎに付き合うつもりはない」


「……時間稼ぎ? なぜ、ツミカさんが、そんなことをしなければいけないのかにゃ? 詳しい説明を求むにゃ」


 などと、なお食い下がる茶柱に、

 ロイガーは、パチンと指をならした。


 すると、茶柱の口が『ぎゅっ』と閉じる。


「この領域内において、暴力は無効化されるが、しかし、裏を返せば、暴力でなければ有効ということ。ゲームの邪魔をする者を黙らせることは暴力とは言えない」


 そう言ってから、

 ロイガーは、トウシに視線を向けて、


「さて、お仲間が必死になって時間を稼いでくれたわけだが、ルールの完全把握は出来たかな?」


 嘲笑しながらそう言う。

 その言葉と態度には、

 『人間風情が、いくらあがいたところで無意味』、

 という感情が透けて見えた。


 実際のところ、15分やそこらで、無限将棋のルールを完全に把握するなど不可能。


 ――だが、



「……おう、茶柱が踏ん張ってくれたおかげで、どうにか、無限将棋を理解することができた」



 堂々と言い切るトウシの目をジっと見つめるロイガー。

 二秒ほど時間を使ってから、


「……出来のいいハッタリだ。ほんの一瞬とはいえ……本当に、理解しきったのかと思ってしまった」


 『くくっ……』と、おかしそうに笑ってから、


「不可能だよ。人間の頭脳で、この無限将棋を理解することなど。ルールの一部を理解するだけでも、ゆうに数十年の時を必要とするだろう」


 一万種類のコマの特性を把握する、

 となると、もはや、簡単な言語の単語を暗記するようなもの。


 そこからさらに、それぞれのコマを組み合わせた戦法などを学ぼうとすると、

 数十年ではまったく足りない。

 定石やハメ手など、型を覚える段階となると、

 さらに、その数十倍、数百倍の時間を必要とし、

 『勝利を掴むための研究』という領域になると、

 さらに、その数千倍、数万倍の時間を必要とする。


 それが、無限将棋という地獄のゲーム。

 数分やそこらで理解など、絶対にできるわけがない。


 そう理解しているロイガーは、

 今日、本当の地獄を知る。






「はい、詰み。ワシの勝ちやな。お疲れはんでーす」






 30秒後、

 たった数手で、

 トウシは、ロイガーを瞬殺した。

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