94話 『厄介なゾンビ』の最終形態。


 94話 『厄介なゾンビ』の最終形態。


「ルースー。少しだけ見えてきたぞ、お前の動き。ランダムに見えて、特定のパターンがある……と思わせておいて、そのパターンがランダムで決まる、そうだろう?」


「……」


「お前のパターンは、おそらくアホほど多い。見極めるだけでも、ずいぶんと時間がかかりそうだ。大変だねぇ。けど、俺ならいける。俺なら折れずに闘い続けられる。というわけで、さあ……エンドレスワルツとシャレこもうじゃないか」



 狂気の笑顔を向けてくるセンに対し、

 ルースーは、『気絶できればどれだけ楽だろう』などと考えていた。


 とにかく逃げたかった。

 もう、センエースなどというイカれた地獄の相手などしたくなかった。


 しかし、逃げられない。

 絶対に逃げられない。


「もう……勘弁……して――」


 ルースーは、アリアを恨んだ。

 こんなバケモノの相手を任せてきた神を呪った。

 しかし、いくら、神を呪っても、

 現実は何も変わらなかった。


 センは止まらない。

 どれだけの時間を重ねても、

 どれだけのダメージをあたえても、

 『厄介なゾンビ』の最終形態かのように、

 ひたすらに、

 もくもくと、


 武の追及をし続ける。



「……もう……やめっ……」



 ついには、涙を流したルースー。

 いつしか、涙も枯れはてて、

 気づけば心が死んでいた。


 終わろうと思っても終われないので、

 そのうちルースーは、考えるのをやめた。



 ルースーが、考えるのをやめても、

 センは止まらなかった。


 彼の異常性は、いつだって、常軌を逸している。


 センは、延々に闘いを続ける。

 強くなり続ける。


 センには才能がない。

 武の才能がかけらもない。


 だが、彼は、『繰り返せる力』をもっていた。

 他の誰にもマネできないレベルで、


 永遠を積めるだけの器があった。


 だから、彼は止まらなかった。

 ほんの少しずつ、

 けれど、確実に、

 センは強くなり続けた。


 ほんの少しずつ、

 ちょっとずつ、

 ゆるやかに、

 おだやかに、


 けれど、間違いなく、

 センは強くなり続けた。


 ――その結果、


「……20年かかったか……んー、正直、ループを繰り返していた頃と比べたら、まだこっちの方が楽だったかなぁ……やっぱ、俺、脳死で鍛錬を続けるほうがあっているらしい。ループしている時は、いろいろ考えないといけなかったからな」


 そう言いながら、センは、


「それじゃあ、終わりにしようか。もうわかっていると思うけど、俺はお前を超えた。俺より強い程度の雑魚じゃあ、俺には勝てないってことさ。というわけで、じゃあな」


 そう言いながら、

 センは、踏み込み足に心を込めて、


「閃拳」


 必殺の拳を、

 ルースーに叩き込んだ。


 その一瞬が、ルースーの意識上では、すさまじく長いスローモーションに見えた。

 止まっていると錯覚するレベルで、時間が、ゆっくりになった。


 自分に向かってゆっくりと進んでくるセンの拳を、

 無抵抗で見つめたまま、


(……ああ、よかった……やっと終わる……)


 安堵の底にいた。

 20年間、センに勝ち続けたルースーは、

 ようやく、最後に、一度だけ負けられるのだと理解して、

 大粒の涙を流した。

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