33話 影を統べる女神。


 33話 影を統べる女神。


 突如、上空に出現した謎のジオメトリ。

 そのジオメトリには、恐怖を感じざるをえない禍々しさが確かにあった。


 最初こそ、皆、ザワザワと、疑問符の海で溺れていたが、

 次第に、ざわつきの声が消えていく。


 ――誰もが、何も言えずに、ただ、

 だまって、そのジオメトリを見つめていると、


 いつしか、ボォっとあわく輝きだした。

 その名状しがたい輝きは、

 ジオメトリの中心に向かって収束していく。


 そんな様子を見つめながら、

 センは、


(あれはなんだ、ヨグシャドー)


 テレパシーでたずねると、

 ヨグシャドーは、たんたんと、


(私は、貴様の意志を尊重する。貴様は、『原初の愛』を拒絶した。よって、世界の未来は確定した)


(……)


(貴様は、もう、私の本体と戦う覚悟を決めたとみなす。ならば、前哨戦といこう。メインマッチに花を添えるための『会場を温める前座』は絶対必須)


(前哨戦……?)


(――『彼女』は、まだ若く、おまけに戦闘職ではないので、武力という点では、最下層だが、しかし、間違いなく『アウターゴッド』である。『彼女』にも勝てないような者に、『私の本体』の前に立つ資格はない)


(……アウターゴッド……ぇ……)


(さあ、おでましだ。存分に戦うがいい。彼女こそ、影を統べる女神、自由なる盟約、マイノグーラ)


 その言葉の直後、

 ジオメトリの中心から、

 一人の美女が這い出てきた。


 コウモリの翼を持ち、

 黒のスーツを着込んだ、

 ショートカットの美女。


 風貌から、すでに威圧感がダダ漏れになっており、

 彼女を目にした者は、全員、胸の奥で揺らめくザワつきを感じた。


 何人か、発狂している者もいる。

 悲鳴を上げ、失神する者も。


 そんなザワつきの中、

 センは、彼女――マイノグーラを睨みつけ、


(……エゲつないほどの高み……こうして遠目から外見を見ているだけでも、ハンパなさが伝わってくる。……あれが最下層? ふざけるのも大概にしろ……)


 心の中で独り言をつぶやくと、

 ヨグシャドーが、ドヤ顔で、


(まあ、確かに、現時点における『貴様の視点』で言えば、すさまじい化け物だろうが、しかし、彼女など、私の目には、よちよち歩きのヒヨッコにしか見えない。しょせんは、ハナたれの小娘。資質も、正直、微妙。私が同じぐらい若いころは、もっと高みにあった。まあ、私と比較するのは、さすがに酷だが。当時から私は最強だったからな。なにがどうとは言えないが、とにかく無敵だった。私の凄さは、常識の向こう側にある)


 『若いころの武勇伝マウンディング』をとってくる。

 そんなヨグシャドーのイキリを、

 センは、


(老害テンプレおつ……)


 さらっと流してから、


(……正直、勝てる気が一切しないんだけど……何か、攻略のヒントとかある? 対策方法があるなら、教えてほしいんだけど)


 ダメ元で聞いてみると、

 ヨグシャドーは、


(対策方法というのは、それを必要とする者の中にしか存在しえない。この全知全能である私が、あの程度のカスを相手にするのに、対策など考える必要はない。よって、『知らん』という答え以外を持ち合わせてはいない)


(……ものすごいシッカリとした、例文のような矛盾だな……)

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